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経済学理論のいわゆる「外部」についての多声的研究

『進化経済学ハンドブック』について/概説を中心に

2006.10.22 塩沢由典 

(1)ハンドブック編集の経緯

  • 進化経済学の現況、学会の現況
  • 学会の役割(自然発生的な発表の場vs.組織としての努力)

  • 進化経済学の魅力>>豊富な事例、把握の困難(収集努力) 第二部「事例」
  • 学問としての独立性>>仮にも全体像を 第一部「概説」

  • 参考資料:序文概説目次編集者書評
  • 書誌:進化経済学会編『進化経済学ハンドブック』共立出版,x+581,2006.9.25,8000円。


    (2)「概説」を書いた意図

  • 進化経済学
    現状:多くは学説史になっている。Cf. G.ホジソン、シュンペータ学会
    理念:新古典派経済学に対抗しうる独立の経済学
    「概説」:ひとつのexampleを提示すべきだ。
    統一体系はできない、作るべきでない。(進化する学問)
    >>個人の責任で。改訂版では新して「概説」が必要。
    やろうとして実現しなかったこと:複数の研究計画の提示。

  • いくつかの留意点
    「進化」概念の明確化
    進化経済学の意義、妥当性、普遍性を明確にする。


    (3)経済学における「進化」の概念、経済における進化するもの

  • 「進化」概念をめぐる討論
    「変化するもの」という構造化されない概念>>現在でも一般的?
    「複製子」という捉え方vs.「保持」(藤本隆宏)
    「概説」>>保持・変異、競争と選択>>進化子
    「複製子」概念の有効な領域の存在を否定しない。
    >>Replicator Dynamics、進化ゲーム、遺伝的アルゴリズム、個体群思考、etc.

  • 経済の7つの重要なカテゴリー
    商品、技術、行動、制度、組織、システム、知識
    ○排他的なカテゴリーではない。 
    ○相互に入れ子構造をなしている。


    (4)経済における進化の意義と普遍性

  • 改善・改良が可能なもの
    「人間は全知全能でない」が前提。>>複雑さ。
    複雑系経済学は進化経済学の基礎理論
     (「複雑系経済学の現在」『経済思想』1(経済学の現在1)、日本経済評論社、2004)
    「進化」については、一般社会も感銘を受けている。 Cf.「進化する」表現集

  • 経済行動の捉え方
    人間行動をどう捉えるか 
    定型行動vs.最大化行動
    M.ミンスキー『心の社会』(小さなエージェントたちの社会)
    定型行動のレパートリー>>行動の進化

  • 例:商品開発から販売停止まで さまざまな進化と選択
    事前選択 こんな技術・こんな商品、商品企画、FS・マーケット調査
    事後選択 販売実績、リピート率、利益率
    実現過程 技術開発(研究)、生産・原材料部品確保、広告・宣伝
    改善・改良 現場の工夫、需要家・消費者の声、技術改良、新素材
    市場環境 競合製品(質・機能・価格、代替商品)、時代変化(生活様式、人口構成) 最終的には市場が決める。(企画者、生産者、為政者ではなく、買手が決める。)


    (4)経済の原理と分析方法

  • 原理:交換の原理 物々交換からリカード貿易理論まで
    「資本」をどうみるか。 Cf. 1960年代の資本論争
    HOSの貿易理論>>資本は生産要素。貿易対象でない。
    Cf.「リカード貿易理論の新構成/国際価値論によせてU」

  • 経済学と分析方法
    古典経済学 文学的方法
    新古典派  数学的方法 
    問題点 「数学化できるものだけが理論的」
    数学的方法の限界>>「均衡」と「最大化」の枠組みに閉じ込められる。
    代替案  過程分析(アルチュセール:マルクスの貢献>>「過程」)
    これから  新しい方法>>Muti-agent simulation
    問題点  実験とおなじように、完全ではない。


    (5)アダム・スミスのジレンマ

    ☆1970年以降の経済学にたいしいかに対抗するか☆

  • マクロ経済学のミクロ的基礎付け
    ケインズ派の試み マランボー、根岸隆、グラモン、ほか
    研究プログラムとして失敗?
    現実政策としての問題 「総需要」「パターナリズム/利権」「政治哲学」

  • 反ケインズ派の試み
    自然失業率 (M.フリードマン)、フェルプス
    合理的期待形成 ルーカス
    実物景気循環論 プレスコット
    内生的成長 ローマー、ルーカス

  • より大きな対立:D.Warsh"Knowledge and the Wealth of Nations"
    経済学の初発に含まれていたジレンマ: ピン工場と見えざる手
    ピン工場  収穫逓増
    見えざる手 均衡理論  この二つの間の解消しえない矛盾
    ウォーシュの経済学批判
    経済学は、均衡理論のみを発達させて、経済発展の理論が欠けていた。
    収穫逓増への回帰 ブキャナンからローマー、クルーグマン、B.アーサ

  • 収穫逓増は、新古典派理論に真に内部化されたか。 
    §4.7 補論 収穫逓増への回帰
    ブキャナンからローマー 外部経済としての収穫逓増(マーシャルの解決)
    企業内部の収穫逓増を扱えない。>>スラッファのマーシャル批判

  • 収穫逓増の経済学 §4.7 収穫逓増
    収穫逓増の多様性と発生機構 なぜ普遍的か
    過程分析なら扱える。>>分析例:6.1 企業の生産量決定 §6.2 収穫逓増下の企業規模  
    Cf. 用語「限界費用論争」(塩沢由典)


    (6)シュンペータのジレンマ

    ☆概説執筆者としての反省☆

  • シュンペータのジレンマ:『経済発展の理論』
    一般均衡理論による循環の理解
    革新(イノベーション)の担い手としての企業家(アントレプレナ)
    「ワルラスのジレンマ」でもある。
    H.A.サイモン「経済学のいうとおりなら、経営学はいらない」 概説
    「イノベーションの担い手」という概念を欠いている。
    進化を外からみた事実としてのみ捉え、実現者の内部からの視点を欠いている。
    資本主義/市場経済とはなにか。
    その中で駆動されているものは大変。
    社会はその恩恵も受けている。

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