インターネット講座2005「創造都市の創造と市民社会の新たな展開」4
扇町創造村構想について
塩沢由典
1.扇町創造村構想の概略
2.地域の現状分析
3.立ち上げとプロモーション
4.運動のユニークな意義
第3回講義では、今後の産業構造について考えました。製造業に従事する人口はますます小さくなるであろうこと、第三次産業が分化していかざるを得ないこと、今後は知識産業、創造産業、あるいは時間充実産業とでも呼ぶべき産業に従事する人口の比率が増えて行かざるを得ないことなどを確認しました。第4回講義では、地域のインキュベーション能力を高める必要があること、その主要な担い手が町おこし・地域おこしの主役・脇役であり、彼らが政策の担い手とかんがえられるような政策の新しい概念が必要であることを論じました。わたしの講義は第5回で最後となりますが、第5回講義では、先の2回の講義て提唱したことを実際に実現するために、ひとつの具体的な事例を紹介させていただきます。紹介といっても、まだ始まったばかりで、実績としてはこれからのものです。
創造都市研究科では、「創造都市を創造する」を研究科の重点研究の目標に掲げています。これは単なる調査研究ではなく、社会実験型の研究であるということを標榜しています。地域の課題を設定し、その目標を達成するために、目標達成の動きに参加する中から、創造都市を創造するために必要な問題と知見を獲得しようとするものです。扇町創造村は、そうした社会実験の一つとしてわたしが取り組んでいるものです。
1.扇町創造村構想の概略
まず、扇町創造村構想の概略を説明しましょう。多くのことに触れる必要から、話は箇条書きにちかいものになりますが、しばらく我慢して読んでください。
(1)名称
扇町創造村、あるいは扇町芸術村を一応の仮称としています。この運動が本格的に立ち上がるときに正式名称が決まることになります。以下で分かるように、これは行政区域の扇町よりかなりひろい地域を対象していますが、大阪の北の新しいシンボルとしては、この地域の中心に位置し、名前も優雅な扇町はどうかというアイデアです。江戸時代の名前を復活させて「天満組創造村」といった名称も候補のひとつです。
(2)対象地域
大阪市北区のうち、中ノ島を除く全域が対象地域です。地域名としての扇町より非常にひろい範囲を考えていることに注意してください。とくに、西の方では中津や西梅田を含みます。北は淀川、東と南は大川で区切られた地域一帯が対象です。有名な地域名では、中津と梅田の他、天満・西天満、天神橋筋、中崎町、南森町などがあります。長柄、豊崎は、難波宮時代からの古い歴史を引き継ぐものです。
大阪の中では、いわゆる「キタ」を含み、多数の事業所の立地するところですが、同時に広告、カタログ制作などを中心とする多数のクリエータが仕事場としています。出版・映像・音楽・舞台芸術などでも大阪で高い集積率をもちます。老松通りのように、大阪では珍しい画廊・骨董商の町もあります。放送局や新聞社などのマスコミの拠点でもあり、多くの専門学校が立地する若者の町であるという特徴もあります。
(3)目指すもの
この地域にはすでに多様な創造活動の集積があります。その集積を生かし、地域全体をさまざまな創造活動のインキュベータとします。多くのクリエータ、アーティストがこの地を拠点として、全国的・世界的に活躍する町をめざします。芸術活動や創造活動で多くの人が生きられるだけでなく、創造の傾向や思想をめぐり討論が沸騰する町、新しい芸術運動・創造運動が生まれ、芸術の新しいジャンルが育つ町をつくります。
(4)期待される効果
効果としては短期・長期にさまざまなことが期待されます。短期的に実現可能なものから長期的な期待までを箇条書きにまとめると以下のことなどが期待されます。
@この地域から先端的なモードやライフスタイルが発信されるようになる。
A全国から若いクリエータ・芸術家などが集まり、活躍する町となる。
Bこの地域がインキュベータとなり、多様な第4次産業・第5次産業が育つ。
Cここで生まれる新しい傾向がアジアや世界に発信される基盤となる。
D芸術を含めた新しい思想運動の震源地となる。
E世界の知的活動・創造活動のひとつの拠点として求心力をもつ町となる。
(5)必要性と緊急性
21世紀においては、個人の創造活動を中心とする第4次・第5次ともいうべき産業が大きな割合を占めると予想されます。大阪は、商業の街・工業の町として発展してきましたたが、アジア諸国の追い上げのなか、現在は産業構造の大きな転換点にあります。大阪・関西の将来を考えるとき、この大きな転換を見据えて、時代の流れを先導する政策が必要です。
従来の産業政策・経済政策は、旧来型産業を再活性化させようとするものでした。そのような政策も必要ですが、大阪・関西の持続的な発展を図るためには、それは後ろ向きの政策です。今後伸びるであろう産業部門を強化し、世界における都市競争において尊敬される地位を確立できるだけの、先導性・戦略性が要請されます。扇町創造村は、創造活動を中核とする21世紀の産業構造の創出基盤を用意しようとするもです。
創造活動は、すぐれて知的な活動です。沈滞した空気の都市では、世界的に活躍するクリエータやアーティストの拠点となることはできません。大阪に東京やニューヨーク、パリなどに匹敵する刺激的で沸騰した空間をつくりだすことが必要です。こうした空間が今形成できなければ、現在あるクリエータたちの集積も、次第に東京や横浜に吸収され、将来そのことに気づいたとしても取り返しがつきません。いまが最後の機会です。
(6)認識を変える
この地域におけるクリエータ、アーティスト、プロデューサ、デザイナー、映像作家、編集者などの集積はすでに相当なものですが、そのことが個々の制作者たちや、かれらに仕事を依頼する発注者たちに意識されていません。創造村構想は、そうした現状に対する「にがり」の役割を果たそうとするものです。
この地の人的集積のもつ意義を再認識してもらうことがまず必要です。そうすることで、すでに自然発生的に存在する多様な動きに、共通の目標とコンセプトを与えます。それらが共鳴して大きなうねりとなり、この町を創造活動のメッカとすることが目標です。
(7)具体的方策
具体的な方策として、創造村の意義と可能性を理解し、その実現に協力してくれる多様な個人・団体の緩やかなネットワークを組織します。
中心となるべきは、個人事業者として活躍するアーティスト、ミュージシャン、クリエータ、デザイナー、俳優・女優、声優、映像作家、アニメ作家、編集者、プロデューサなどです。インキュベータや大学などの組織がサポート役とプロモータ役となることが考えられます。
応援者・応援組織としては、この地のインキュベータや専門学校や大学院、専門学校、新聞・放送・雑誌などのメディア関係者、イベントホール、画廊、レストラン、ホテルなどがかんがえられます。これらの人々に賛同してもらい、専門職業人の枠を超えた動きをつくりだします。
これらの人々を中心として、創造村にふさわしいさまざまな取組みを作りだすほか、地域のインキュべーション能力を高める仕掛けと構造を作りだします。
2.地域の現状分析
地域のインキュベーション機能を強化するといっても、素地のないところに創造的な産業を創出することはできません。扇町創造村の対象地域には、以下で検討する多くの核となりうる動きがあります。新しい産業の中心的担い手となりうる人々が多数集まっていることも有利な条件です。これらが構想の基盤となっています。
(1)クリエータ事務所等の集積
西天満・東天満などにはデザイナー等の事務所も多く、天満・天神地区には、自宅兼アトリエをもつクリエータも多数います。グラフィック・デザイナを含むデザイナの大阪市内の分布をYahoo!電話帳で調べてみると、市内全体で1034の事務所が検索できます。行政区別では、中央区が数としては一番多いのですが、北区には251、約4分の1の事務所が集積しています。それらが天満・天神地区に集中している点も特徴的です。これは活発な交流を作りだすのに有利な条件です。
このほか、広告制作、商業写真、カタログ印刷、広告代理業、情報誌出版社、出版社、広告代理業、新聞社、テレビ番組制作、映像ソフト制作などでは大阪でもっとも高い集積率をもっています。書画・骨董、画廊、映画配給、劇場、芸能プロダクションなど、芸術に関係の深いサービス業も高い比率で集積しています。
(2)自立した芸術空間
中津にはガード下の空間を利用した民間の経営する芸術活動の拠点として「ピエロハーバー」や「アートカクテル」などが立地しています。喫茶店天人(Salon de AManto)や温州堂などでは、小さなパフォーマンスや表現機会が恒常的に提供されています。コモンカフェ(Common Cafe)は、日替わりマスターにより運営され、芸術などに関心のある人たちのネットワーク作りが行われています。
(3)芸術系専門学校
この地域には芸術系・創作系・コンピュータグラフィックス系の専門学校が多数立地しています。Yahoo! 電話帳で調べた結果(2004年3月調査)では、美術学校11、コンピュータ学校38、タレント養成学校15、ヒジネス学校66を数えます。多数の若者がこの地で学んでいることが推定されます。これらは、第一義には教育機関ですが、クリエータやアーティストの供給機関でもあります。宝塚造形芸術大学とデジタル・ハリウッドの大学院では事業経営者やプロデューサとしての能力形成を目指しており、すぐれたインキュベーション機能をもつものと期待されます。
(4)芸術系インキュべータほか
クリエータ育成を主眼とするインキュベータ「メビック扇町」が2003年4月からか開設され、すでに多彩な支援活動がなされています。公的なインキュベータ以外にも、実質的なインキュベータ機能をもつ組織がいろいろ考えられます。FM802は、ヘビーローテーションによって人気歌手を生み出したFM局として有名です。大阪には雑誌の出版社が少なく、東京に比べて才能を社会に紹介する機能が弱いのですが、ラジオ局・テレビ局・新聞社などがそれに代替する役割をもつことができれば北区には大きな可能性があります。ミニFM局や地域テレビ局が果たすべき役割もあると考えられます。
(5)ひとびとの知的関心と討論文化
天満・天神地区を対象とした地域誌『天満人』は、1500円という安くない価格と、かならずしも若者向けに作られていないことなどを考慮すれば、このような雑誌が成立していることそのものが、天満・天神地域における知的活動への関心の高さを示しているといえます。扇町トーキン・アバウトにおけるさまざまなトークグループの成立や実験哲学カフェの成功も、高い討論文化の存在を示しています。これは真に新しいものをつくりだしていくための知的沸騰を作りだのに欠かせないものです。
(6)ボランタリー活動
北区には登録された町づくりNPOだけでも11を数えます(大阪ミュージアム文化都市研究会調査、2002年度)。天満音楽祭は、2005年には第6回目となり、参加希望グループは85を超えました。音楽だけでなく踊りや映画などの上映もあり、天満の芸術祭の様子も持っています。寺町の寺院なとが会場を提供し、地域一体型の取組が定着してきています。商業目的ですが、老松通りでは、春・秋2回、老松古美術祭が開催されています。このような動きも、創造村の重要な要素です。
(7)歴史資産
扇町創造村は、江戸時代の天満組にほぼ重なっています。北の寺町と呼ばれる同心町・与力町界隈には、緒方洪庵・大塩平八郎・山片番桃の墓などがならんでいます。明治以降の人をとっても、川端康成や佐伯祐三の生誕の地があります。創造的な街には、建物や景観が刺激的であるだけでなく、そこに住む人々・活躍する人々に語りかける多くの神話が必要ですが、扇町創造村の対象地域には掘り起こすべきおおくの歴史資産があります。
3.立ち上げとプロモーション
扇町創造村構想の意義は、現在すでに存在している多様な動きに総括的な名称を与え、それら活動に統一した意味を与えることにあります。この地で活躍する多様な創造者たちが地域の力と自分たちとを再発見し、先端的な創造活動を強化していけば、外部からの注目度も向上し、仕事機会の発生などよい循環が形成されていくと考えられます。
扇町創造村の運動には、具体的な建物とか、公的な組織とかはかならずしも必要ではありません。多くの人がこの運動の意義を理解し、創造村の実現をひとつの政策課題としてそれぞれの持ち場でできることに取り組めば、次第に大きな成果を得られると思われます。自然発生的・即興的な色彩の強い運動であるため、今後、この運動がどのように展開していくのか想像の難しいところもありますが、多分にわたしの希望的な観測を含めて簡単に触れてみましょう。
(1)理解と認知のフェーズ
扇町創造村構想は、地域ぐるみのインキュベータという新しい概念を提唱するものです。その意義・目的・可能性などについて、地域社会の理解を得ることが第1の重要ステップとなります。そのためには、まず以下のような取組がかんがえられます。
1)少人数のグループで、運動の骨格・目標・使命などについて大枠を確認する。
2)芸術村運動の担い手となる各分野の指導的人物に、この運動の意義と必要性を説明し参加を呼びかける。
3)新聞記者・雑誌編集者・テレビティレクタなどに対し、運動の意義と可能性について説明し、理解を得る。
このフェーズの取組はすでに始まっています。大阪市立大学創造都市研究科単独によるさまざまなシンポジウムが計7回、宝塚造形芸術大学専門職大学院デザイン経営研究科との共催によるもの2回、大阪青年会議所との共催によるもの1回など、のべ10回にわたるシンポジウムなどで扇町創造村構想について報告・説明しました。北を活性化させる懇話会での講話や、大阪市北区地域開発協議会と財団法人大阪市北区商業活性化協会共催の新年互例会における講演など、地域の依頼による講演依頼にも応えています。もちろん、個人ないし小さなグループ相手にも機会のあるごとに説明させてもらっています。
そうしたなかで新聞などにも記事として取り上げてくれてました。「関西再生へ芸術村」(2004.4.15朝日新聞)、「芸術都市キタを考える」(毎日新聞、2004.6.4)、「動き出した芸術村」(読売新聞、2004.8.29)のほか、2005年2月の「市政新聞」ではトップで、「印刷の日本」では2005年1月5面に渡って特集を組んでくれました。
今年に入ってからは、2月2日に扇町芸術村(仮称)第1回懇談会がメビック扇町において開かれたあと、第三回以降は「扇町芸術村議会」という名称で定期的な会合がひらかれています。これは、創造村構想を実現する構想を練るためのものであるとともに、参加者の情報交換の場にもなっています。交流の場や新しい動きを知るために北区内のさまざまな場所を会場としています。村議会などと大げさな名前になっていますが、
現在決まっていることとしては、10月22日の夜、中津祭りにおいて「扇町芸術村村議会」の公開村議会が開かれます。一晩気楽に議論しようというものです。
(2)地域の可能性を外部に紹介するフェーズ
扇町創造村運動の目指すものは、この地域に創造活動への新しい需要を呼び込み、創造活動を職業として生きていくことのできる基盤を形成することです。
そのためには、この地域が日本において注目される創造活動が行われ、優れた才能が集まっている地域であると地域の外部から認知されなければなりません。そのために、イベント的なものを含めて、外から(あるいは専門家外の人から)この地域のポテンシャルが見えるようにしていかなければなりません。
たとえば、以下のような仕掛けが考えられます。
@「芸術と経済接合」シンポジウム
芸術活動・創造活動が将来の産業として重要なものであることを広く社会に知ってもらうため、経済界のオピニオン・リーダと芸術活動のオピニオンオン・リーダとの対話と討論の機会を創出する。
A「境界を越える」シンポジウム
表現様式・立場・主張を超えて、気鋭の人材による相互討論。いま、創造者はなにを考えて表現にとりくんでいるか。表現は、現代社会になにを意味するのか。新しい議題を提起し、先端の思想の交流を試みる。
B冊子・単行本などの編集・出版
北区のポテンシャルを知ってもらい、創造村運動にも理解を得るために、この地域における創造活動の集積や注目される動きなどを編集・出版する。この地域の構造と可能性を外から見やすいものとすることが地域内部の認識を深めることにもなる。
(3)独自の情報回路を構築するなど社会のインフラを整えるフェーズ
創造的な地域として外部から注目されるためには、小数の個人がスターとなるだけでなく、新しい芸術様式や傾向などを生み出し、それを深化させることのできる地域にならなければなりません。それを可能にするのは、創造者・需要者・批評家の3者を結ぶ情報回路です。新しい傾向の小さな差異に気づき、その傾向を拡大していくのは、制作者や創造者だけではありません。批評家やユーザの判断が重要です。大阪に雑誌が少ないことを考えれば、意識して3者をつなぐ試みが重要です。そのためには、場の設計を含めた適切な仕掛けが必要となります。
まずは、各地のカフェなどで、芸術論議が侃侃諤諤となされるような雰囲気を作りださなければなりません。自然発生的にそのような文化が育つことを期待すると同時に、場やメディアのうまい構造を作りださなければなりません。これは社会のインフラストラクチャー作りであり、行政の関与・支援が生きる場面です。
例として、小学校の跡地利用・建物利用が考えられます。現在、北区内にもいつくかの小学校が廃校になっています。そのうちの一校をエディターズ・ハウスとするとか、レコード図書館とするなどのことが考えられます。
エディターズ・ハウスの場合、弱い出版機能が強化されるばかりか、この地域の多様な芸術活動・創造活動をひろく紹介する役割が強化されます。編集者は、新しい話題・議題のよき提案者であり、人材の発掘者でもあります。人口に占める編集者の比率が大阪は東京に比べて極端に少ないと考えられ、これが大阪から人材を世に送り出せない原因の一つともなっています。東京都区内に事務所を構えるには、家賃だけでもかなりの必要が掛かります。エディターズ・ハウスを建設して、低い家賃で貸すことができれば、東京から移転する編集者も出でくると考えられます。工場誘致ほど一挙に大きな雇用は生まれませんが、創造産業を支えるインフラストラクチャーとしては重要なものです。
レコード図書館は、大規模なものは全国にも例を見ません。音楽の著作権ビシネスの基礎ともなるものであり、この方面でも大きく遅れを取っている大阪としては起死回生の策となる可能性があります。パリのシテ・デ・ザール(芸術家向けアトリエ付きマンション)の大阪版を設けるといった施策も考えられます。
廃校などを利用すれば、大きな橋を掛けたり、道路工事をしたりするのに比べてはるかに低い費用で、大阪が必要とする産業転換を助けることができます。レコード図書館の理想的な形としては、民間の自発的な運営主体に市が場所や初期費用を助成するというものでしょう。
(4)世界から人をひきつけるフェーズ
この地域が新しい芸術様式や傾向などを次つぎと生み出すようになれば、扇町創造村は必然的に外部の注目を引く存在となります。その創造活動・芸術活動は、日本はもちろん、アジアや世界の各地から注目され、世界の各地からこの地域に来てみたい、住んで創造活動をしたいという人たちが出てきます。大阪北区は世界的に吸引力のある町となることができます。
そのような魅力の中心は、あくまでもこの地の先端的な創造活動であり、芸術活動です。しかし、遠くからの人を集めるためには、副次的な仕掛けも重要です。そのような分野で北区の多くの人々が暮らせるようになります。多くの創造者が住む町であることがこれらの町づくりを可能にする条件であることにも注意してください。次のような例が考えられます。
@ファッション・ストリートの創造
A観劇とライブの街
B楽しい食事の街
C歩いて回れるブランド・ショップ街
D作品や原画の町・創造現場の見える街
こうなれば、創造村運動は、芸術や創造活動に従事するひとたちだけものではなく、この地域に住むすべての人々が生き生きと暮らしていける町をつくりだすことにもなります。
4.運動のユニークな意義
扇町創造村のような運動は、どの都市のどの地域でも展開できるものではありません。各種の創造的職業の厚い蓄積と、作品に対し強い関心と高い鑑賞眼をもつ市民との幸運な結合を必要とします。北区には、そうした結合が現にあると思われます。創造村運動は、そうした状況の中ににがりを放り込む試みです。その意味で、成算はかなりあります。
不安要因もないではありません。文化振興のような迂遠なもで町おこしをするということに大阪人は疑いの目を向けるかもしれません。地域全体を創造活動のインキュベーションの場とするというのは、あまりにも遠大な野望と見えるかもしれません。しかし、25年後を考えるとき、現在の産業構造を維持することができないことは目に見えています。これは第3回講義でも強調したことです。今後どのような仕事を生活の糧とするかを考えるとき、大阪に開かれた数少ない可能性のひとつが創造村をステップとする産業展開の方向です。このような産業展開は、個別のアーティスト・クリエータたちの努力では切り拓けません。放置しておけば、いまある集積も東京などに吸収され、次第に骨のないものになりかねません。
あらゆる創造者たちは相互に刺激しあう環境と創作活動を収入に変えるメカニズムとを必要としています。大阪北区は、これを可能にする稀有なチャンスをもっています。扇町創造村運動は、このチャンスを現実化する試みなのです。
大阪は、実は現在、衰退する都市と持続的に発展する都市との分岐点に立っています。扇町創造村構想は、こうした分岐点にたつ大阪を持続的発展の方向に引き込むための政策提案です。類似の施策が他のどこかで試みられているという性質のものではありません。人まねで、このような危機は乗り越えられません。多くの関係者が知恵を絞って始めて成功するものです。このインターネット講義の受講生の皆さんの中からも、趣旨に賛同して協力してくれるひとが出てくることを切に願ってやみません。
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