主張
1)ベンチャー育成のためには適切な金融制度が必要である。
2)ベンチャーに対する低利融資には、構造的矛盾がある。
3)ベンチャー経営者は、初期資金確保のためには、株式による投資資金を受け入れるべきだ。
4)株主は、創業経営者に対し、ストック・オプション制度を活用し、資金提供者以上の待遇をせよ。
5)融資でも投資でもない、第3の資金提供方式をも探る必要がある。
1.問題提起
これまでの公的な育成制度は、融資に偏ってきた。府県特別市のインキュベーション事業のなかにも、「低利融資」の制度が多い。VECの主要業務は債務保証で、これも融資促進のためである。このような制度が好まれる理由のひとつに、ベンチャー側の要請がある。融資なら、経営に介入されないが、投資ではこまる、受け入れたくないというのである。しかし、ベンチャー向けの融資には、大きな問題がある。ベンチャー育成は、成功したベンチャーから高倍率の資金回収を行わなければ維持できない。そのためには、投資か融資でも投資でもないだい3の方法を活用すべきだ。
2.融資制度の矛盾
ベンチャーは、その語義からして、冒険的なものである。大きな成功の可能性もある代わりに、失敗の危険性も高い。アメリカ合衆国では、10の内、3年以内で、本当に成功するのは2−3社、3・4社は泣かず飛ばず、あとの3・4社は3年以内に倒産すると言われている。
このような事態のとき、各社に100万円ずつ、計10社に、年利3%で融資したとしよう。3年後に7社生き残り、1年に1社ずつ計3社が倒産したとしよう。融資側の3年後の損益は、
貸付金 700万円
受取利子 72万円(1年目27万円、2年目24万円、3年目21万円)
合計資産 772万円 損失228万円
管理その他に一切費用がかからないとしても、融資側は確実に損失を計上しなければならない。
もし、このような損失を避けようとすれば、融資先として、確実なところをえらばざるをえない。元本を確保するためには、失敗率の低い、安全な融資対象をえらばざるをえない。3%の利子率では、3年以内の倒産率が9%以下でなければならない。金利を高くして年10%としても、一年に10%以上の倒産があれば、その資金は欠損になる。
ベンチャーに低金利融資を行う政策は、最初から欠損を出すという覚悟の上でしかできないことになるが、このような政策に納税者あるいは資金提供者の同意ができているとは考えられない。ベンチャーに対する高利融資をだれものぞまないとすれば、ベンチャーに対する融資制度そのものが成立しないと考えるべきである。
3.ベンチャー経営の新しい方式
従来、ベンチャー経営者は、外部の投資資金を嫌ってきた。それは、以下の危険を危惧してのことであると考えられる。
#1 経営への介入
#2 経営権を奪われる危険
#3 創業利益が小さくなる
しかし、それはやや経営者として料簡の狭い考え方であり、考え方を改めなければならない。
#1 経営が優れていれば、不当な介入はおこらない。(資本の利益)
#2と#3 創業の経営者には、相応のストック・オプションを提供することにより、株式の所有比率を適切に保つことができる。
4.アメリカでの新方式
アメリカ合衆国では、融資でも投資でもない、第3のベンチャー資金の調達方式が生まれている。それは、資金受入者が資金受入額の定数倍(たとえば、10倍)まで資金を変換した段階で、債権・債務が解消されることを骨子としている。
ベンチャーへの資金確保は、必要とする事情に適合したものでなければならない。そのためには、上のような、資金導入方式に注目することもひとつの解決策であろう。