シベリア支部の概略

塩沢由典


 以下は、入手したアニュアル・レポート、パンフレット類と昨年の東北大学ノボシビルスク初代駐在代表の堀江典生氏(現富山大学)の論文「シベリアの科学/貧困と繁栄」からの抜粋。

1.研究所の構成(ノヴォシビルスク科学センター[アカデムゴロドク]所在のもの)
  研究所名は、英訳名からの重訳であり、日本語に正確に対応しないものもある(塩沢の仮訳)。*の付いているものは、塩沢が訪問して、別途記述のあるもの(§2をみよ)。

数学および計算機科学
・ソボレフ数学研究所
・計算機数学および数理地球物理研究所
・情報連合研究所
計算技術研究所
エアショフ情報システム研究所
データ処理装置デザイン・技術研究所

物理科学
・ブドカー核物理研究所*
・レーザー物理研究所
・半導体物理連合研究所
応用マイクロエレクトロニクス・デザイン・技術研究所
・オートメーションおよび電子計測連合研究所
科学装置製作デザイン・技術研究所

力学および工学
・水力学連合研究所
  ラヴレンチェフ水力学研究所
高率水力学デザイン・技術研究所
理論応用力学研究所
  クタテラッゼ熱物理学研究所*
鉱山研究所

化学
・化学運動論および燃焼研究所
・無機化学研究所*
・ボロジツォフ有機化学研究所
・固体化学および化学工学研究所
・触媒連合研究所
  ボレスコフ触媒研究所*
「ゼオジット」研究開発センター

生命科学
(生物多様性およびシベリアの天然資源)
・土壌科学および農業科学研究所
・シベリア中央植物園
・動物システム理論および生態学研究所

(現代的実験科学)
・細胞学遺伝学研究所
・バイオ組織科学研究所

地球科学および環境科学
・地質学・地球物理・鉱物学連合研究所*
  4つの研究所がある。 
・スカーチェフ森林研究所西シベリア部
・水および環境問題研究所ノヴォシビルスク部

社会科学
・経済産業技術研究所*
・歴史学・言語学・哲学・法学連合研究所

国立公共科学技術図書館
書籍14百万冊、研究者・技師・学生・教授たちに開放している。
毎年30万人の利用者がある。

国際研究センター(7機関)
ノヴォシビルスクの研究所を基礎に、外国機関との提携により運営されている。
・シベリア国際シンクロトロン放射線センター
・航空物理研究国際センター
・国際トモグラフィー・センター
・国際触媒特性試験センター
・シベリア国際科学と教育における先端情報技術センター
・シベリア国際地域研究センター
・アルタイ国際人類生物圏研究センター

ノボシビルスク国立大学
アカデムロドクの最初の諸研究所と同時に設立された。
  急速に世界的な教育機関となった。
ノボシビルスクの科学センターの教授や設備を利用。

2.主な研究所の概要

無機化学研究所
 かつて東北大の西沢潤一さんが若いころ、この研究所に留学(滞在?)されていたことがあり、それ以来、東北大学とは関係が深い。
 東北大学は、現在、RASシベリア支部と提携関係をむすんでいるが、東北大「北東アジア研究所」の出張所がこの研究所の一室にあり、無機研究所と東北大とは特別な関係にあると見られている。
「北東アジア研究所」の所長は、徳田教授。ノヴォシビルスクには、助手1人が半年交替で常駐している。
Home Page: http://www.che.nsk.su

核物理研究所
プロトビノに分所がある。そこを含めて、研究所従業員2900名もいる。うち研究者は400名、実験室助手400名。製作工場をもち、650人の技師・技能工の他、多くの作業員を抱えている。アカデミー会員4名、通信会員6名、60名の上級博士、200名のPh.D(博士候補)を抱える。
基礎研究分野では、電子・陽電子加速衝突器を基礎として素粒子物理研究を進めている。応用部面では、加速衝突器による高輝度放射光による研究、電子・陽電子直線加速器の開発、シンクロトロン放射のソース、など。
 日本との関係で注目すべきは、周辺の理工学・医学・生物学の諸研究所と組んで放射光解析装置を開発・応用拡大し、それがSpring8などへと結実する先駆的な役割を果たしたことが挙げられる。
ISTC(国際科学技術センター=日米欧露共同運営機関)から77万5千ドルが配分されている。COEに相当する国家学術センターに指定されている。
技術や検出器などの輸出で海外の資金も導入しており、シベリア支部では豊かな研究所である。

触媒研究所
ノヴォシビルスクに約800人、オムスクに80人の従業員がいる。この内、350人が高い水準の研究者である。7つの科学研究部門と応用触媒問題部門、触媒特性試験国際センター、情報センターをもっている。
7つの研究部門は以下の通り。異質触媒部門、同質および協調触媒部門、数学モデル化部門、非伝統的触媒過程部門、環境のための触媒的方法部門、触媒過程エンジニアリング部門、触媒探索のための物理化学方法部門、応用触媒問題部門。
2酸化窒素生産、石油精製プラント用触媒などに独自の技術をもち、世界各国の大学・研究機関・企業と共同研究を行い、多くの研究費を受け取っている。取引先には世界の100以上の大学、約450の企業が含まれている。この3年間における給与の遅配は、延べ6日で、これはシベリアの研究所として非常に珍しいことである。
はやくから企業努力をしており、批判も多かったが、現在、核物理研究所とともに、もっとも繁栄している2つの研究所のひとつである。

熱物理研究所
全部で490人の従業員がおり、そのうち185名が研究者。科学アカデミー会員1名、通信会員2名、教授40名、95名のPhDを抱えている。アメリカ合衆国、イギリス、ドイツ、フランス、イタリー、ベルギー、ノールウェー、日本、ポーランド、チェコ、中国、韓国などと連携している。
研究部門: 相転移を伴うシステムにおける熱および物質移転、一相システムにおける熱および物質移転、分散システムにおける熱および物質移転、水力学的安定性と乱流、渦状流、多相流、多相システムの波動力学、希薄ガスの力学、物質の熱力学的特性、電力発電の熱物理学過程、新素材開発のための熱物理学基礎、低温度プラズマ、など。
製品としては、圧縮型ヒートポンプ、超音波流速計、衝撃波発生器、高真空度拡散ポンプ、万能ガス分析機、石炭くず燃料を用いるボイラー、など。
ここの経済状況は不明であるが、外部資金導入して、結構うまくやっていたのではないか。

経済研究所
この研究所の社会学部門には、社会学で有名なザスラフスカヤがいた。数理経済学部門は、ネムチノフ、カントロヴィッチ、ノヴィコフの3人組の創始になる。
シベリア研究者による、石油・ガス複合施設における市場を基礎とする制度転換の研究は、注目を集めた。セルベルストフ教授は、西シベリアの経済発展に関するコンサルタント的役割を積極的に果たしている。

地質学・地球物理・鉱物学連合研究所
地質学、地球物理学、古生物学、鉱物学の4研究所からなっている。
応用にとぼしく、現在は財政的な困難に直面している。ドブレツォフ支部総裁の本拠。


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