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東京新聞・読書欄

2000年、私の3冊

            

塩沢由典(大阪市立大学・経済学)


『東京新聞』2000年12月24日、8面3段42行。(中日新聞他にも掲載)



(1)アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン
「「知」の欺瞞 / ポスト・モダン思想における科学の濫用」
田崎晴明・大野克嗣・堀茂樹訳、岩波書店、2800円。

(2)アルマティア・セン
「自由と経済開発」
石塚雅彦訳、日本経済新聞社、2200円。

(3)R. N.マンテーニャ、H.E.スタンレー
「経済物理学入門 / ファイナンスにおける相関と複雑性」
中島眞澄訳、エコノミスト社、4800円。

3冊とも、翻訳本になりました。(1)は、ソーカル事件で有名になった、アラン・ソカ ルとフランスのブリクモンという二人の物理学者による「ポスト・モダン」の言説へ の批判。ポスト・モダンが科学や数学の用語を本来の意義から離れて飾りとしてのみ 使用していることを告発している。複雑系の諸科学にも、一部、オカルトが紛れ込ん でおり、自戒したい。(2)は、1998年のノーベル経済学賞を受賞したセンの一冊 。「開発」を物質的な経済の次元のみでは語れないこと、社会的・政治的次元が重要 であることを指摘している。「ケイパビリティ」が鍵概念だが、「潜在能力」と訳し てしまうと理解しにくいかも。(3)は、昨年からブームの観のある金融工学関係の本だ が、金融工学の基礎にある正規分布仮説では数年に一回という変動に弱いこと、つま り金融工学が危機管理の出来ない技法であることをも示している。





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