塩沢由典>個人>論説・小論>五代友厚方式

五代友厚方式の提唱

塩 沢 由 典(しおざわ・よしのり/大阪市大学教授)

財団法人関西経済研究センター『会報』
340号、2000年10月、p.1.



「IT革命」が進んでいる。この10年の技術の進歩と普及の速度は、じつに目覚ましい。ウェブ(WWW)の原理が考えだされたのが1989年、ブラウザーのMosaicが1993年、Netscape Navigatorがその翌年、そこにJavaが搭載さえると発表されたのが1995年の末。それ以来5年しかたっていないのに、ウェブは強力な情報発信媒体となり、巨大なネット産業を生みだしてしまった。

 バイオ産業でも、注目すべきことがあった。日米欧18の研究所がそれぞれの政府の支援を得て組んだ国際コンソーシアムによるヒトゲノム計画は、ひとりのベンチャー企業家の出現により、計画期間を5年も短縮してほぼ終了してしまった。バイオ技術の中心課題は、いまゲノムからプロテオーム(タンパク質の機能・構造解析)へと移行しつつある。  こうした急速な変化の時代に、経済の仕組みが追いついていない。いま一番大きな日本の問題は、これであろう。関西でも、「経済再生のシナリオ」をはじめ、多くの提言・行動プランがだされている。わたしも、個人や各種の委員会でそうな提案の一つや二つしたことがある。しかし、重要なのは案をだすことではなく、それを実現することであり、しかも必要な速さをもって実現することである。

 ところが、行政も経済団体も、動き方が10年前とほとんど変わっていない。まず、案が出て、調査が決められる。2年目、調査して、報告する。3年目、報告に基づいて方針が決まる。気がつけば、事業が始まるまでに4年もたっている。こんなスピードではIT革命に追いつけるわけがない。

 そこで提案したいのが、五代友厚方式である。五代は、鉱山会社などの事業のほか、当時の先進的な経済インフラである大阪株式取引所や大阪商法会議所などを提唱、実現した。現在は、資金が事業の主要な制約条件ではない。セラノ・ジェノミックス社のブェンターがやったように、しっかりした計画があれば、資金は集まる。必要なのは、五代のような仕掛け人である。数人の五代友厚がでれば、関西は変わる。世界の先端に立つことも夢ではない。



ホーム  論説・小論一覧  ページ・トップ