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産業経理協会・経理部長会
複雑系経済学から市場を考える
2003.12.17 塩沢由典
(1)複雑系経済学について
○複雑系科学
1996年・97年に大流行=>一過性のものではない。
1948年のW.Wieverの論文=>1980年代に開花
数学・自然科学・工学・経済学・認知科学まで含む。
18世紀:ニュートン力学(理論と実験)
数学が追いつかない現象
単純でも多種類の行動がかみ合わされるとき、古典的な方法では解析できない。
マルティ・エージェント・モデル、コンピュータ実験
☆U-Mart研究(株価指数先物市場をコンピュータ上に実現)
○複雑系経済学
新古典派経済学(主流の経済学)批判
最適化と均衡=>完全競争、完全情報、無限計算能力などを仮定
現代の新古典派(新古典派U)=>枠組みの改変ではなく、仮定を緩める。
合理性の限界
最大化不能(計算能力から=>効用最大化・利潤最大化の実際)
H.A. Simon『経営行動』=>経済学のいうとおりなら、全経営学は一行ですむ。
E. Goldrattt『ザ・ゴール』=制約理論
習慣・制度の重要性
一定の型をもつ行動=>現実の世界の中で選択(進化)
☆遺伝的アルゴリズム(GA)との深いつながり
○進化経済学
経済を進化の視点から捉えなおす。
起源はTh. Veblen。旧制度派、オーストリ学派、新制度派、その他と多様。
複雑系経済学は進化経済学の基礎理論。
☆進化経済学ハンドブック:事例(行動・技術・商品・制度・組織など)
(2)市場をどう見るか
○20世紀はどういう時代だったか(1871年から1968年まで)
時代:統一ドイツ統一/パリ・コンミューン/明治維新=>ドプチェク/5月/大学紛争
組織への信頼(巨大事業会社、国家、党)
計画経済(ロシア革命からアフリカ社会主義)
市場への不信認(アメリカの大恐慌1929-33、昭和恐慌)
経済の制御(国有化、ケインズ政策、規制、福祉=>介入国家)
★現代版 インフレ・ターゲット論(安易な解決、コストを考えない政策)
○最後の4半世紀(1974から2000年まで)
サッチャーリズム、ニュージーランド、改革・開放路線、マンモハン・シンの改革、ラテンアメリカ(ワシントン・コンセンサス)、ソ連・東欧の市場経済への移行、レーガノミックス、規制緩和と改革
・国家に対する不信認(ケインズ政策の失敗、非効率、赤字財政削減)
・市場に対する厚い信認(顧客志向、効率、民営化)
★日本は(1)の優等生、改革では乗り遅れ。
参考資料:『市場対国家』ダニエル ヤーギン, ジョゼフ スタニスロー
(3)市場経済の弱点
○いまは、市場経済の弱点があまりにも過小評価されている。
真の経済理論(真の経済学)が必要。
@市場のみでは成立しない(取引制度、契約の執行、健康・風紀・公害)
A逸脱増幅機構が内蔵されている(金融危機、景気循環、インフレ・デフレ、貧富の差)
B調整のコストを個人負担(失業、倒産、貸し倒れ、危険資金)
=>国家や社会の役割 「市場か国家か」ではなく、第3可能性を
☆新古典派のイデオロギーに対抗できる経済学が必要。
○市場原理主義はなぜ生まれるか
新古典派経済学=>物理学の成功を擬似的に真似ようとした。例:P. Samuelson
経済学は予測可能な科学にならなけれればならない。例:M. Friedmann
☆複雑系では、予測可能な定式が可能であるとは限らない(後出)。
「職業としての経済学」=>重要でなくても、理論化できるところを。
☆街灯の下の酔っ払いのたとえ
○予測理論の限界
オームロッド『バタフライ・エコノミックス』草思社=>犯罪、景気、成長率
W.Sherden『予測で儲ける人々』ダイヤモンド社=>天気予報、経済・景気、株価、人口
☆在庫管理:より正確な予測により儲けようとするより、制度的な対応が重要。
(4)組織内の管理と公正
○日本の不正問題
雪印乳業集団食中毒(2000.6大阪工場<=大樹工場)・雪印食品偽装牛肉(2002.5)
自動車整備士・トヨタ自動車不正事件(2003.12)
○アメリカの不正会計問題
エンロン(2001)、ワールドコム(2002)、アンダーセン(廃業2002.8 従業員28,000人)
☆日本経済新聞社『米国成長神話の崩壊』日本経済新聞社、2002年、第7章。
○「創造的会計」
制度と行動の共進化(いたちごっこ)
○複雑系経済学と会計・経理
なぜ、会計業務が必要か
・不正を防ぐ
・ありあまる情報があると、却って理解しにくい。=>合理性の限界
記録(財務会計)と誘導(管理会計)報告
財務諸表による分析(例:投下資本利益率=売上高利益率×総資産回転率などを軸)
採算(利益計算)と資金繰り(キャッシュフロー)
簿外資産・負債
最後に頼るべきはなにか。=>「公」という概念
○システム2元論
業務サイクルと価値サイクル
価値サイクルのみにたよる危険性
(5)21世紀の市場経済
○なにが必要か
規制緩和・構造改革 短期の不況対策として考えてはならない。→制度設計に歪み
制度設計への視点
景気循環を通じて維持できる制度
経済だけでなく、社会を維持できる制度
日本経済の構造問題
@トップランナー Aアジアの追い上げ B適応できていない
経済の問題<経営の問題<社会の問題 狭義の経済政策では解決できない。
例:ベンチャー 社会の気風を変える。 社会の認識を変える。
例:研究開発 中村vs.日亜化学 隠れた中村博士
○制度改革だけではすまない。=>人間を変える必要
ベンチャー振興政策の10年間、成果は?
海図なき航海の時代
お神輿経営・大衆動員では、大きな方向を誤ってしまう。
創造的指導者
強い個性の人材 頭の強い秀才 Slow Learner
アインシュタインと中村修二
○なぜいま社会人大学院
『読売新聞』2003.2.23 14面「オピニオン」=>組織を超えた見方・考え方を身に付ける。
社会の変化の激しい時代 世界共通の事情
大学(学士課程)で受けた教育で一生暮らせない。
例:IT革命 北欧3国の経済成果はなぜいいか
キャッチアップからトップランナーへ 日本の事情
キャッチアップ期 先例重視 底上げ 頭の速い秀才 調整型 年功序列制
トップランナー期 先駆者 トップ 頭の強い秀才 リーダーシップ 能力主義
社会経験の後にしか学べないものがある。
H.Mintzberg 経営学は、経験と知識のあるものが学ぶものだ。
☆まとめ☆
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