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進化経済学会・地域公共政策学会オータム・コンファレンス
新しい「政策」概念/ベンチャー振興から考える
2003.11.1 福井県立大学
塩沢由典(大阪市立大学)
T.3つの対立軸
(1)政府対市場
シンポジウム・テーマ「市場と政府の共進化」
市場の失敗=>政府(国家)
一般政府=中央政府+地方政府+社会保障
(2)国対地方
2003.10.24 「地域再生本部」設置。
『毎日新聞』2003.10.31社説=>地域再生になぜ国が基本方針を出すのか。
地方分権推進の三位一体改革(国庫補助負担金削減、地方交付税改革、税源委譲)
(3)「官」対「公」
個人的な経験から
スバルプラン、大商、産業活性化センター、VECなどでの提言作り
政策提言と政策実現との遠い距離(地方にいることからわかってくること)
中央政府の方針の実現の手伝い?/中央政府への陳情・請願?
関西ベンチャー学会
日本ベンチャー学会設立大会でのショック
清成会長:ベンチャー学会の二つの柱 @研究とA運動
学者の責任(批判だけでは済まされない。=>3年掛けて設立)
「政策」概念を変えるべきでは
U.3つの例
(1)例1:環境問題
地球温暖化/温暖化ガスの抑制
市場に任せておくことはできない。=>法的規制(政府の直接介入)
市場化すればよい。=>排出権取引(政府:制度設計+市場)
みんなで気を付ければよい。=>運動(「公」の発現)
(2)例2:関西文化学術研究都市の課題
筑波科学研究都市vs.関西文化学術研究都市
企業秘密の壁
いかに集積の利益を生み出すか。
@競争前段階における技術情報の公開を
A技術担当役員・研究所長は明確な政策をもて。
Cf.技術の3段階
競争前段階/競争段階/競争後段階
競争前段階での協力=>他地域より一歩先んずる。
オムロン・市原達朗副社長(研究開発に関する情報公開)
Cf.企業間の開発競争
企業秘密:これが企業の最適な政策か?
世界競争の時代=>世界各地で開発=>1年早く開発できれば、地場産業化
例:液晶表示装置LCD 関西の先端地場産業 シャープ以外にも多くの企業が従事
(3)例3.五代友厚方式
大阪商法会議所(1880) 大阪商業講習所(1880) 大阪株式取引所(1880)
五代友厚は、有志を説いて、最新の経済制度を自力で導入した。
V.新しい「政策」概念
(1)通常の「政策」概念
山川雄巳:「政策」の3つの概念 @常識的、A経営学的、B政治学的
日本語では、「政策」=「公共政策」=政府の方針、行為
このような「政策」概念を広げないと、政策議論は市場の失敗、国家の失敗というディレンマに陥ってしまう。政府の手でなされる政策は、広義の政策の一部にすぎない。
Cf.日本学術会議経済政策研究連絡委員会第16回シンポジウム
「経済政策とアカウンタビリティ:制度設計と人づくり/政策パラダイムの転換と実践を考える。」(2002.12.13開催)
(2)「政策」概念の拡大
政策とは、社会の多くの人々の追求目標として共通に保持されることにより、社会の発展に寄与する理念をいう。
W.新しい「政策」概念で見直すと
(1)政府による経済政策(政府の失敗)
1990年代末の日本 貸し渋り=> 貸し渋り抑制、信用保証協会の保証条件緩和、
結果: 1999年度損失1840億円 2000年度損失4725億円 財政措置必要額:1兆1600億円
第3セクター(1980年代の花形:86年5月の民活法、87年5月のリゾート法)
結果: 地域開発型:地域開発型3セク、84%が経営不振企業(第9回第3セクター経営実態調査:帝国データバンク2000 http://www.tdb.co.jp/watching/press/p000804.html )
(2)ふたつのエピソード(「公」を体現する非政府組織)
SHARE(Self-Help Association for a Regional Economy)、Mass. U.S.A
創設者:Robert Swann と Susan Witt(E.F.Schumacher Society)
小口融資:理事会が貸し出し決定。返済業務は銀行に委託
例1.Sue Sellow, chevre 製造 5000ドルでステンレス容器を設置、市販可能に
例2.Bonnie Smith,編み機1台=>借り入れにより拡大、3台に
Grameen Bank(バングラデッシュ)
創設者 Dr Muhamed Yunas(経済学者)
借り手:95パーセント女性、償還率:98.74パーセント、利益を出している。
X.政策の新しい担い手
(1)公的目標を持った起業家たち
○片岡勝 社会起業家。コミュニティ・ビジネスを育てる。
○山中昌幸・平井由紀子 起業家教育を事業化
○長谷川岳 91年学生仲間で「よさこいソーラン祭り」を開催
2003年 303チーム 4万4千人参加 観客約202万人(5日延べ)
岩波アクティブ新書『YOSAKOIソーラン祭り』(坪井・長谷川)
○山納洋 扇町Talki' About(前OMS支配人)
(2)政策遂行の担い手
NPO、学会、社会起業家、ベンチャー起業家、大学
(3)なにをなすべきか
[課題](創造都市研究科「ベンチャー経済論」での課題)
自分が実現したいと考えている政策課題を一つ挙げ、それを中央政府・地方政府の施策としてではなく、株式会社の活動によって実現するビジネス・プランを書いてください。
Y.新しい政策を考える/ベンチャー振興を例として
(1)ベンチャー振興政策
「ベンチャー」の定義:
狭義「IPOを目指す」=>創造都市研究科アントレブレナーシップ研究分野
広義「CB、NPOを含む」=>関西ベンチャー学会CB・NPO研究部会
なぜ、必要か。
経済の再活性化。しかし、経済活性化のためだけではない。
ベンチャー振興政策
アメリカの制度の輸入、税制改革・規制緩和、インキュベータ
(2)なにが必要か
キャッチアップという日本のビジネス・モデル
技術・制度・知識の輸入=>量的拡大、コストダウン=>1990年代に崩壊
社会理念=>輸入型・調整型リーダ、年功序列制、政府依存(たかりと不満)
教育理念=>底上げ、頭の速い秀才
社会の気風を変える
福沢諭吉「一身独立の気風」「一身独立して一国独立す」
ベンチャー起業家叢生<=>独立の気風(SOHOを含む):共進化
(3)地域の頭脳機能・神経機能
地域の議題設定能力を育てる
「地方分権」に必要なこと
日本の情報構造(東京中心、特にテレビ・雑誌)
オピニオン・リーダーの重要性
政策を政策とするために
オピニオン・リーダーの育成=>創造都市研究科都市経済政策研究分野
育成目標:「地域経済活性化のオピニオン・リーダーを育成する」
地域のメディアと小さなサイクル
議題が東京に行って戻ってくる?
小さな情報サイクルが重要
大学の役割
地域の発展に必要な知識創造と人材の養成(中世から変わらないもの)
Cf.大学の理念像
古典的概念 フンボルト型大学(象牙の塔)
20世紀・アメリカの大学
20世紀前半 教育大学
20世紀後半 研究大学
21世紀 起業大学(entrepreneurial university)
例:スタンフォード大学 工学部長ターマン博士
例:テキサス大学ICC コズメツキー教授
大学の地域への貢献 「産学連携」だけはでない。
(4)まとめ
政府でも市場でもない「公」が存在する。
政策を遂行する主体が幅広く存在する。
政策実現は、政府にのみ頼ってはならない。
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