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社会的経済研究会 第7回
「第3の秩序」について
2004.12・10 塩沢由典
(1)前提の話
われわれの時代
塩沢1943生まれ 高2で60年安保 助手:1968フランス5月、プラハの春、国際会議(べ平連) 69大学紛争 1970-74フランス留学 経済学に転向 1989-91東欧・ソ連の崩壊
経済学者として
新古典派経済学vs.ケインズ経済学vs.マルクス経済学=>複雑系経済学・進化経済学
主要打撃目標は新古典派経済学=均衡理論(需給均衡・最適化原理)。
左翼・革新・理想主義者への疑問:公刊文書としてはあまり書かず。
☆搾取理論
「マルクスの搾取理論」「国際貿易と技術選択−−国際価値論によせてT」「解説」
労働者の搾取、先進国による後進国の搾取という言説の意味。説得的意味と間違い。
☆現存のものはだめ。存在しないものに期待。
第3の秩序論:ネットワーク社会論、贈与経済論、社会経済論。
権力を握らなかった思想家に期待:グラムシ、ルクセンブルグ、トロツキー
☆図式主義
ウォーラーシュタインの世界システム論・反システム論(ブローデルとは異質なもの)、レギュラシオン・グループの輪切りの経済史・図式主義
(2)新しい社会秩序をどう考えるか
岩田昌征のトリアーデ論 (『現代社会主義の新地平』(日本評論社))
次 元 | 第一系列 | 第二系列 | 第三系列 |
経済人類学 | 交換 | 再分配 | 互酬 |
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近代的価値 | 自由 | 平等 | 友愛 |
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経済メカニズム | 市場メカニズム | 計画メカニズム | 第三メカニズム |
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所有制 | 私的所有 | 国家的所有 | 社会的所有 |
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経営管理 | 私的経営 | 国家的経営 | 自主管理 |
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分配様式 | 賃金と利潤 | 固定賃金表 | 所得分配協議 |
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人間類型 | 極大化タイプ | 標準化タイプ | 適量化タイプ |
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権利と責任 | 個権・個責 | 集権・集責 | 共権・共責 |
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社会問題 | 不安と安 | 不満と満 | 不和と和 |
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人間関係 | 原子化 | 位階化 | 相互規制 |
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社会構造 | 階級社会 | 階層社会 | 連帯社会 |
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政治的決定 | 多数決 | 統裁合議 | 全員一致 |
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家族関係 | 夫婦関係 | 親子関係 | 兄弟姉妹関係 |
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象徴的死 | 自殺 | 他殺 | 兄弟殺し |
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○確認したいこと
理念の追求は、それに対応する病理・社会問題を生む。
社会の編成原理を代えることは、いまは見えていない問題を生む。
意図の高さ・正しさで社会設計を考えてはならない。
社会制度:おおくは設計されたものではなく、意図せざる結果。高貴な意図も、副作用を伴うことに社会科学者は責任をもたなければならない。
○市場経済に代わる第3の経済システム(経済原理)は、成立するか。
前提:
@現代経済の多様さ、規模、世界規模での連結を破壊するものでないこと。
A物的生産とサービス生産の大部分が第3の経済原理にのっとっていること。
この前提を置くとき、交換を原理とする市場経済以外に現実的に代替できる原理は存在しない。
○補完的原理
市場経済の弱点・問題・病理を補正するために、再配分原理と互酬原理とを用いることは必要であり、可能。(K.ポラニー:19世紀資本主義 市場経済がすべてを覆った時代)
○社会民主主義
日本のマルクス主義は、社会民主主義とベルンシュタインを修正主義として馬鹿にしてきた。(NAMは、国家と資本主義に対抗するといい、社会民主主義を否定していた。)
しかし、20世紀を振り返ってみると、社会主義では社会民主主義が一番まともだつたといえる。
(3)原理の問題
交換、再配分、互酬のどれを社会原理とするかによって、社会・経済のあり方が変わる。
交換 市場経済 相対取引が基本 2人の合意で十分=>独立した個人、民主主義、自由
再配分 国家(旧家産制国家、計画経済) 巨大ヒエラルヒー
互酬 規模に限界 顔と名前の一致する範囲
Cf.旧ユーゴスラビアの協議経済
松尾匡「用語解説:アソシエーション論」 http://www.std.mii.kurume-u.ac.jp/~tadasu/yougo_aso.html
共同決定社会 疎外社会
開放社会 アソシエーション 市場
閉鎖社会 ゲマインシャフト ヒエラルキー
互酬・連帯の世界は、交換の原理・市場経済の中の「小さな島」としてのみ可能。これを拡大しようとする試み・市場経済に対抗しようとする運動は失敗する。
(4)市場経済の中の社会的経済
○NPOへの期待
わたし自身も期待する。しかし、過大な期待はすべきでない。
=>「ネットワーク」「市場と組織を超える」「アソシエーション」
「第3セクター」への期待と教訓
「ゆるやかな市民革命」(今田忠)といった捉え方を越えるべきでない。
NPOは、なぜ効率的でありうるか。
個人の寄付金が重要部分を占めるとき、NPOは社会的監視下に置かれる。
行政(強制であつめた金)で動かしている限り、かならず非活性化する。
○イタリアの社会関係資本
イタリアの社会的協同組合(福祉・医療、文化、環境、教育、農業、工芸) 6500団体
田中夏子『イタリア社会的経済の地域展開』日本経済評論社、2004年10月。
北イタリアの市民的伝統
信心会>相互扶助協会>協同組合・平信徒組織>労働組合・大衆政党
13世紀には、南北の経済的地位は逆転していた。
パットナム『哲学する民主主義』NTT出版、2001年3月。
第5章「共同体の起源を探る」
社会資本(社会関係資本) なぜパットナムは「資本」という言葉を使うか。
○市場経済の中でできること
フィランソロピー・企業の社会的責任・環境会計 歴史:会計監査、監査役、経営参加
市場経済の自由さをもっと活用すべき。
株式会社(公開企業)
これは、お金さえあれば、外部から介入できる。
他のさまざまな非営利法人(社会福祉法人、学校法人、社団法人、財団法人)よりましかもしれない。
○ベンチャー起業の意義
21世紀は、大起業の時代ではない(大組織である利益しが消失しつつある<=ICT)。産業構造は、いつも変わってきている。(経済発展の常態)
ケインズ政策 マクロ経済政策(財政出動、金融調整)により完全雇用が達成できると考えた。しかし、できなかった。=>現在の「新自由主義」の背景
「介入国家」の衰退は、歓迎すべきこと。(vs.金子勝、神野直彦)
資本主義の衰退
資本が希少性が失せつつある。
市民一般のエンパワメント
エンパワメントのためのインキュベータ
アメリカなどでは実在。豊中インキュベーションセンターMOMO(片岡勝など応援)
○資本家支配・経営者支配でない企業は可能か
新古典派の経済学 資本家支配・労働者支配でも変わらない。
経営者支配の強みはなにか。
どうすれば対抗できるか。Cf.「経営の思想と自主管理」
モンドラゴンの共同組合はなぜ成功したのか。金融組織(信用組合)の活用。
[参考論文]
「市場・組織・ネットワーク」(『経済学雑誌』1994.7)
「衰えゆく資本主義と介入国家」(朝日新聞、2001.1.20)
「失われた「理想の力」」(朝日新聞、2002.8.9)
『マルクスの遺産』藤原書店、2002.3。
「解説」『森嶋通夫著作集7 マルクスの経済学』岩波書店、2004.4。
「マルクスの搾取理論」『近代経済学の反省』(日本経済新聞社1983年)第6節219-288。
「国際貿易と技術選択−−国際価値論によせてT」 『経済学雑誌』1985.3。
「経営の思想と自主管理」『マルクスの遺産』第5章。
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