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はじめに


 「創造村」は、職業として創造活動を行う人のネットワークです。そこには多様な人間がが集まり、刺激し、触発されて、高い技術に裏打ちされた新しい先導的な傾向がつくり出されます。そんな創造村をキタ(つまり大阪・北区)に作ってしまおう。この本は、そんな野心をいだく人間が集まって、まずは動きだしたという報告です。

 なぜ「創造村」なのか。今後の都市づくりにとって、それが鍵となる概念だからです。その詳しい理由は第8章に書きました。21世紀の産業構造を考えるとき、大阪のような大都市が持続的に発展していくためには、そこにいくつもの創造村が必要です。本書は単なる町づくりの提言ではありません。まして、創造者・芸術家たちの願望でもありません。都市の再生のために、今後欠かすことのできない「政策の鍵」。それが創造村です。

 必要は分かった。大阪にそんな可能性があるのか。こう問われるかもしれません。じつは大阪北区ほど、可能性のある町はないといってもよいでしょう。詳細は本文に譲ります。キタは、集積も歴史も活動もあるすばらしい町です。ここに創造村を作ることができなければ、東京以外のどこにも創造村は不可能だということになります。たしかに難しさはあります。創造産業の核となるコンテンツ産業は、つよく一極集中型の産業です。障害を乗り越える知恵が必要です。その知恵を見つけ出し、つくり出すのも創造の一部です。創造村を作ること自体が大きな創造活動なのです。

 いま、大阪・キタがどんなように動いているか。それがどんな問題をもち、どう道をつけようととしているか。それについても、本文をお読みください。創造村にふさわしい多様な立場の人たちが各自の視点から、大阪を捉えなおしています。

 本書の成立経緯について説明しておきましょう。「創造村つくり」の運動には、実は大学が密接に参画しています。最初の構想から現在にいたるまで、この運動は大阪市立大学の重点研究『創造都市を創造する−扇町創造村構想』の一環として進んできました。この本も、その研究の成果刊行費の補助を受けて可能になりました。

 ただ、この研究は、実態を調査・報告し、政策を提言しておわりというものではありません。わたしたちは、この研究を「社会実験型研究」と性格づけています。現にあるものを調査・分析するのでなく、社会の必要とするものを作り出す過程に実際に参加することから必要な知識を創造しよう。それが真の学問ではないか。文献探索や調査は大切だがそれだけでは過去に向いた研究担ってしまいます。そうではなくて、未来に向けた学問研究の方法を開拓したい。こういう思いが『創造都市を創造する』重点研究には込められています。

 この研究の基盤となったのは、2003年4月に開設された大学院「大阪市立大学創造都市研究科」です。これは、大阪・関西を活性化を担う人材育成のための社会人大学院です。社会の中枢で活躍する社会人が毎年150名前後入学し、夜と土曜日とに学んでいます。こうした使命もった大学院だからこそ、創造村つくりが課題とされ、未来に向けた学問つくりへの取り組みが可能になりました。

 しかし、もちろん、創造村作りは、研究者だけでできるものではありません。大阪を基盤として活躍するプロデューサ、クリエータ、アーティスト、マスコミ、建築家、都市計画者、印刷・出版関係者、商業者、地域振興団体、経済団体、大阪市立大学以外の大学、行政の政策担当者など、多数の方々の賛同と参加をえて、創造村作りは動きだそうとしています。そうしたネットワーク作りの基礎として、「扇町創造村村議会」があります。実質的には、この本は「扇町創造村村議会」と大阪市立大学創造都市研究科の重点研究の共同作業として成立したものです。その意味で前者の主宰者である間藤芳樹さんに編者にくわわってもらつています。

 「創造村つくり」は、始まったばかりです。これが成功するかどうかは、今後、大阪・キタに働き、住む人たちがこの運動の意義を理解し、各自の持ち場に構想にの趣旨を生かしていくことにかかっています。出来上がった運動の成果報告ではなく、構想を単行の本にするのは、この本そのものが村つくりの一部だからです。賛同して動いて見たい方、協力してくださる方は、この運動のホームページhttp://www.creativevillage.jp/をごらんください。

2006年4月7日

塩沢由典 





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