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著者自身による紹介
『マルクスの遺産/アルチセールから複雑系まで』
藤原書店刊、2002年3月30日発行。
思想に責任をとる方法のひとつとしてまとめました。
この25年間にわたし自身の経済に関する見方・考え方も大きく変わりました。社会主義計画経済の実情やソ連型社会主義体制そのものの崩壊、資本主義国における国家の過剰介入への反省などから、わたし自身も経済学も、大きな影響を受けています。
この4半世紀ほどに起きたことは、昭和初期の転向に比べてもより大きな思想の変化でした。これは国家権力の強制によって起こった変化ではないという意味では、「転向」ではありません。しかし、その規模は世界的なものであり、社会思想としてはより重大な意義をもつともいえます。
これだけの大きな思想の変化があったとき、過去を忘れて現在の課題に取り組むだけでよいとは思えません。本書は、マルクスに強い示唆を受けたものにとって、自分の書いてきたものを一度まとめてみることが重要なことではないかと考え、編集したものです。
いまごろ「マルクス」では、あまり売れないことはよく分かっています。書店の棚を見回してみましても、現在は「マルクス」という分類はないか、あってもごくわずかのスペースを占めているに過ぎません。社会の関心がマルクスから離れてしまっている以上、これは仕方ないことでしょうが、思想の問題として忘れ去られていいわけではありません。
収録した論文・対談などは全部で20本。その各章について、執筆当時の事情や考えていたこと、現在のわたしの評価などを「解題」という形で書き添えました。かつて雑誌などでお読みいただいた方にも、裏にそんな事情があったのかと新しい発見をしていただける部分もあるかと考えます。本来は、現在の立場にたって、当時の論文をどう捉え、(プラス・マイナス)どう評価しているか書くべきでしたが、まとめかねている部分も多く、執筆当時の事情の説明が多くなってしまいました。
第四部の「回顧と展望」には、アルチュセールとスラッファを通してマルクスを読むところから出発したわたしが、どのような思考過程を経て、現在の思想に到着したかについてなるべく正直に書きました(第18章「マルクスから複雑系まで」)。また、本書に収めた諸章と、現在、わたしが力を入れているベンチャーによる新産業創造や研究開発のマネジメントとの間の関係についても、書き下ろしの文章(第19章「現在の思想」)で説明しました。
本書におけるわたしの立場は、マルクスは、現在、われわれにとって負の遺産であるけれども、その遺産を受け継ぎ発展させていかなければ、本物の思想も経済学も生まれないだろうというものです。その主張通りの内容になっているかどうかには、いささか疑問もありますが、みなさまのご批判・ご批評をいただければ幸いです。
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