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ノヴォシビルスク視察報告


1999年9月9日
塩沢由典


1)訪問先における行動の概略 

1.8月2日午後 シベリア・インターバンク・通貨交換所 訪問

 所長のニコライ・アノキン氏から、西シベリアの経済の話を聞き、交換所見学。
ロシアにある8交換所のひとつ。国債、株式、通貨を扱っている。
1998年7月の通貨危機までは、主として国債を扱っていた。
 「通貨交換」という名称は名目上のもの。外国通貨市場は、80〜85%モスクワに集中し、地方市場は実質的に消滅してしまった。ノヴォシビルスクの扱い高は2〜3%。
地方株式の上場などに努めているが、通信網でモスクワ市場に連結して、電子金融市場(Electric Financial Market)の形成に期待している。

2.8月3日午前 無機化学研究所 訪問

クズネツォフ所長(アカデミー会員)にノボシビルスク訪問意図説明、協力を求む。無機化学研究所見学。
Prof. Fedor A.Kuznetsov
Director of Institute, Academician RAS, Member of Presidium SB RAS.
E-mail: fk@che.nsk.su
関西学研都市の概要・歴史・課題などにつき、説明。KRIの説明パンフレットを渡す。 クズネツォフさんは、ロシア科学アカデミー・シベリア支部の幹部会(Pesidium)の一員(副総裁といってよいか)、アジア担当。イルクーツクで開かれるAASAへ参加できないか、打診される。
研究所見学。電子部品用のビスマス・酸化ゲルマニュウムの大型単結晶素材。
夜は、堀江さんの友人で同研究所の研究員V.R.ベルーゾフさん宅に訪問団全員で招待わうける。クズネツォフさんの息子さんは、現在、無職に近い遊び人で、一緒に参加されていた。
息子さんは東北大学留学中。お母さんは、ベラルーシ出身でフランス滞在30年。
参照:無機化学研究所

3.8月3日午後 ロシア科学アカデミーシベリア支部本部 訪問

支部総裁ドブレツォフ(アカデミー会員)ほか幹部会員4名に関西学研都市を説明。
Prof. Nikolai L. Dobretsov Academician, Chairman of SB RAS.
E-mail:dobr@sbras.nsc.ru
Prof. Gerikh A.Tolstikov First Deputy Chairman, SB RAS
Fax: 7(383-2)35-00-62
Dr.Gennady N. Kulipanov Corresponding Member of RAS, vice-chairman SB RAS
核物理研究所参照。 E-mail: kulipanov@inp.nsk.su
ほか、一名。
用意していったOHPにて、関西学研都市の概要・歴史・課題などにつき、説明。学研都市とSBとの将来的な連携ができればありがたい旨、話す。(ただし、公的には、どの機関を代表する立場にないことをも説明。)
ドブレツォフさんは、大体の説明を聞いたのち退席。
 AASA大会への参加要請。「滞在中は、なるべく多くの研究所をたずねてくれ。」
シベリア支部の紹介本(露英対訳)、CD−Romもある。

4.8月4日午前 核物理研究所 訪問

クリパーノフ副所長(RAS通信会員)から概要説明、のち研究所施設見学
Dr.Gennady N. Kulipanov Corresponding Member of RAS, vice-chairman SB RAS
Deputy Director of Budker Institute of Niclear Physics
E-mail: kulipanov@inp.nsk.su
Fax: 7(3832)34-21-63
この研究所は、大変大きく、研究所従業員2900名、うち研究者は400名、50人以上の大学院生、650人の技師・技能工、実験室助手400名のほか、多くの作業員を抱えている。これは、コライダー(加速衝突器)などを研究所で製作、一部部品を外国にまで打っているためである。日本のSpring8などにもアイデアを提供し、川崎重工が千葉県で作っている加速機の検出器を現在組み立て中で、実機を見せてもらった。
クリパーノフさんは、年に2回から3回、日本を訪れている。Spring8の運営委員にもなっている。日本にくるときは、関西で講演してもらうよう依頼。
電子・陽電子を反対方向に回転させ、衝突させるときの諸現象を研究してきた。そのため、加速衝突器を3世代に渡って作成・建設してきており、現在も21世紀の研究を支えるために、研究所の収入のかなりの部分をつぎこんでいる。
研究所の運営としては、比較的旧来の方式に近く、ボーナスなどはあまり出していない。それより、研究基盤を充実することに留意している。
X線照射量を従来の100分の1程度に押さえた透写装置を開発し、その特許を中国に売った。江沢民さんがロシアを訪れて、3カ所訪問した内のひとつに選ばれた。
英文アニュアル・レポート、英文小冊子、40周年記念誌(ロシア語)あり。 

5.8月4日午後 地球物理研究所 訪問

地質学研究所チェリアウカ上級研究員(Ph.D)から、研究所の活動状況について説明を受ける。この研究所は、企業等との連携が難しく、経営的にはかなり苦しい。シベリアの探鉱のための基礎調査やツンドラ地帯の温暖化ガスの発生などについて調査している。この研究所は、実態は、地球物理、地質学、古生物学など4つの研究所の連合体である。
ドブレツォフさんは、ここの所長でもある。
Arvidas B. Cheryauka Ph.D Seneior Research Scientist
E-mail: acher@uiggm.nsc.ru

6.8月4日午後 熱物理研究所 訪問

メザルキシュビリ外国部長、シマルコヴィチ博士他から概要説明、のち研究所施設見学。 混合媒体の熱伝播、液体力学と渦、渦状流の実験設備など。コンピュータによる解析、新素材の研究など。希薄ガス力学実験室の巨大な真空チャンバーVIKINGでは、宇宙船の操作に必要なロケット噴射装置が宇宙空間でどのように作動するか実験している。
ボイラーの表面などをきれいにするショック発生機などを製作販売もし、企業等の研究受託も多数している。
Vladimir E. Nakoryakov Academician, Memb.Presidium SB RAS
E-mail: nakve@itp.nsc.ru
今回は会えなかった。クズネツォフさんから連絡してもらい、名刺だけをもらった。
Zurab S. Mesarkishvili Ph.D Director, Department of Foreign Affairs
E-mail: mzs@itp.nsc.ru 研究所全体の説明役。
Prof.Vyacheslav N. Yarygin Dr.Engineering Science
Head of Molecular Gas Dynamics Laboratory VIKING の説明。
E-mail: slava@itp.nsc.ru
Dr.Dmitriy Markivich Head of Laboratory
E-mail: dmark@itp.nsc.ru
英文小冊子あり。
英文のRussian Journal of Engineering Thermophysics および
Thermophysics and Aeromechanics の2誌を発行している。

7.8月5日午前 ノヴォシビルスク州政府訪問

第一事務次官キセーレフ氏より州の経済状況について説明を受ける。
1998年のロシア金融危機の結果、バーターが復活し、一時期は取引の6〜70%も占めていたが、現在は貨幣流通が回復しつつあり、バーターは40%以下に下がってきている。
 ノヴォシビルスク市は、秋にアベリア・フェア開催を準備している。
Vaslyi N. Kiselef first vice-governor, Novsibirsk oblast
E-mail: kvn@obladm.nsc.ru

8.8月5日午前 「シベリア合意」事務局訪問

 事務局長イヴァノフ氏よりシベリア合意の現状について説明を受ける。 
デンマークや韓国、中国からは多くの投資がある。日本からは投資がないが、日本に対し、とくに働きかけていないが、来てくれればよいし、来てくれないからといって困るわけではない。われわれは資源があり、困っていない、といった感じ。きわめて官僚的で、愛想がなかった。
Vladimir I. Ivankov Deputy Counsil Chairman and
Gen. Director, the Executive Board, Interregional Association Siberian Accord  E-mail: root@sibsogl.nsk.su

9.8月6日午後 経済研究所訪問

 副所長セルベルストフ教授と関西・西シベリアの経済協力の可能性について懇談。
最初に関西学研都市について説明、関西と西シベリアの経済協力の進め方について、シベリア側のこうした問題への取り組み、仕掛け方などについて質問したが、こうした問題にはあまり慣れていないのか、どうしたらよいかあまり具体的な話は聞けなかった。
Dr. Viacheslav Seliverstov
E-mail: sel@ieie.nsc.ru
同氏の英語論文: The development of Siberia under economic and political trans-formation in russia, Northeast Asian Study Series 3, Tohoku University, 1999.

10.8月6日午後 触媒研究所訪問

ソビャーニン副所長の代理二人から説明を受けたのち、研究所の施設・研究状況視察。
ここは、堀江さんの評価では、シベリア支部有数の金持ち研究所で、建物もよく修理されていた。応接室には、研究所の「製品」が展示されるなど、日本の企業並の応対がみられた。
Prof.Vladimir A. Sobyanin Vice Director
E-mail: sobyanin@catalysis.nsk.su
Fax: 7(383-2)34-30-56
Annual Report あり。

2)ノヴォシビルスク全般の印象

 ロシア科学アカデミー・シベリア支部は、モスクワ、サンクト・ペテルブルグとならぶロシアの研究拠点であり、多くの研究所と研究要員を抱えている。研究所の大部分は、ノヴォシビルスク市アカデムゴロドクに所在しており、同都市は筑波科学研究都市・関西文化学術研究都市のモデルとなっている。
今回の出張の目的は、シベリア支部の研究活動の実情と西シベリアの経済状況を調査するとともに、ノヴォシビルスクと関西の経済協力の可能性を探ることにあった。多くの研究所を訪問し、見学を含めて多くの要人に会うことができ、シベリア支部の現状、海外との研究協力、関西を含む日本との交流の現状等について実情を知ることができた。西シベリア経済の状況は思ったより良好で、市場経済化の成果が確実に現れていると思われる多くの事実に接することができた。
 関西文化学術研究都市とシベリア支部との連携や、関西企業がノヴォシビルスクの研究所と協力関係を結ぶことの可能性等については、今後の課題として検討していかなければならないが、今回の出張でその基礎的な調査ができた。
以下は、入手したアニュアル・レポート、パンフレット類と昨年の東北大学ノボシビルスク初代駐在代表の堀江典生氏(現富山大学)の論文「シベリアの科学/貧困と繁栄」からの抜粋。

ノヴオシビルスク市

 人口170万人。シベリア鉄道の中間拠点として建設され、現在、西シベリアの中心にあり、シベリアの実質的な首都と位置付けられている。実際、シベリア合意の事務局も、ノヴォシビルスク市におかれている。シベリアの人口は、2400万人。
過去3年間における外国投資は、1億85百万USドル。1998年の内訳は、ア合衆国46%、キプロス35%、ブルガリア10%、ドイツ3%である。なお、1994年にドイツの総領事館が開設されている。日本関係では、東北大学の北西アジア研究所の連絡センターがある。

アカデムゴロドク

ノヴオシビルスク市の中心から南、自動車で1時間弱のところにある科学研究都市(ノヴオシビルスク市の一部)。数学者のソボレフ博士らの提案により、1957年5月の閣議決定により建設を開始し、突貫工事が進められた。1964年には、第一期都市建設が完成している。アカデムゴロドクは、科学研究機能の集積の在り方として、筑波科学研究都市のモデルになったといわれる。現在、約30の機関がここに立地している。

ロシア科学アカデミー・シベリア支部

旧ソ連では、科学研究は科学アカデミーに集中され、大学はもっぱら教育機関として機能していた(双方に籍をもつ研究者はたくさんいた)。このため、科学アカデミーは、多数の研究機関をもち(1995年に総数429機関)、巨大な研究コンプレックスを形成していた。
シベリア支部は、モスクワとレニングラードを除く、最初の地方支部であり、1970年まで、現在の極東支部も傘下に収めていた。現在では、88機関がシベリア支部の管轄に入っている。ウラル支部37機関、極東支部33機関という数とくらべても、シベリア支部がウラル以東最大の研究拠点であることが分かる。
88機関のうち、アカデムゴロドクに30機関、ノヴォシビルスク州内に全部で40機関があり、その外にイルクーツクその他の都市に分散している。

無機化学研究所

かつて東北大の西沢潤一さんが若いころ、この研究所に留学(滞在?)されていたことがあり、それ以来、東北大学とは関係が深い。
 東北大学は、現在、RASシベリア支部と提携関係をむすんでいるが、東北大「北東アジア研究所」の出張所がこの研究所の一室にあり、無機研究所と東北大とは特別な関係にあると見られている。
「北東アジア研究所」の所長は、徳田教授。ノヴォシビルスクには、助手1人が半年交替で常駐している。
Home Page: http://www.che.nsk.su

核物理研究所

プロトビノに分所がある。そこを含めて、研究所従業員2900名もいる。うち研究者は400名、実験室助手400名。製作工場をもち、650人の技師・技能工の他、多くの作業員を抱えている。アカデミー会員4名、通信会員6名、60名の上級博士、200名のPh.D(博士候補)を抱える。
基礎研究分野では、電子・陽電子加速衝突器を基礎として素粒子物理研究を進めている。応用部面では、加速衝突器による高輝度放射光による研究、電子・陽電子直線加速器の開発、シンクロトロン放射のソース、など。
 日本との関係で注目すべきは、周辺の理工学・医学・生物学の諸研究所と組んで放射光解析装置を開発・応用拡大し、それがSpring8などへと結実する先駆的な役割を果たしたことが挙げられる。
ISTC(国際科学技術センター=日米欧露共同運営機関)から77万5千ドルが配分されている。COEに相当する国家学術センターに指定されている。
技術や検出器などの輸出で海外の資金も導入しており、シベリア支部では豊かな研究所である。

触媒研究所

ノヴォシビルスクに約800人、オムスクに80人の従業員がいる。この内、350人が高い水準の研究者である。7つの科学研究部門と応用触媒問題部門、触媒特性試験国際センター、情報センターをもっている。
7つの研究部門は以下の通り。異質触媒部門、同質および協調触媒部門、数学モデル化部門、非伝統的触媒過程部門、環境のための触媒的方法部門、触媒過程エンジニアリング部門、触媒探索のための物理化学方法部門、応用触媒問題部門。
2酸化窒素生産、石油精製プラント用触媒などに独自の技術をもち、世界各国の大学・研究機関・企業と共同研究を行い、多くの研究費を受け取っている。取引先には世界の100以上の大学、約450の企業が含まれている。この3年間における給与の遅配は、延べ6日で、これはシベリアの研究所として非常に珍しいことである。
はやくから企業努力をしており、批判も多かったが、現在、核物理研究所とともに、もっとも繁栄している2つの研究所のひとつである。

熱物理研究所

全部で490人の従業員がおり、そのうち185名が研究者。科学アカデミー会員1名、通信会員2名、教授40名、95名のPhDを抱えている。アメリカ合衆国、イギリス、ドイツ、フランス、イタリー、ベルギー、ノールウェー、日本、ポーランド、チェコ、中国、韓国などと連携している。
研究部門: 相転移を伴うシステムにおける熱および物質移転、一相システムにおける熱および物質移転、分散システムにおける熱および物質移転、水力学的安定性と乱流、渦状流、多相流、多相システムの波動力学、希薄ガスの力学、物質の熱力学的特性、電力発電の熱物理学過程、新素材開発のための熱物理学基礎、低温度プラズマ、など。
製品としては、圧縮型ヒートポンプ、超音波流速計、衝撃波発生器、高真空度拡散ポンプ、万能ガス分析機、石炭くず燃料を用いるボイラー、など。
ここの経済状況は不明であるが、外部資金導入して、結構うまくやっていたのではないか。
経済研究所 この研究所の社会学部門には、社会学で有名なザスラフスカヤがいた。
シベリア研究者による、石油・ガス複合施設における市場を基礎とする制度転換の研究は、注目を集めた。

地球物理研究所

地球物理学、地質学、古生物学、地質学の4研究所からなっている。
応用にとぼしく、現在は財政的な困難に直面している。




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