第6回道州制カフェ塾 奈良塾 <リポート/高松> 2010.5.29(土曜) http://www.kansaishu.net/pages/repo/100529_repo.html

道州制で何が変わるか〜関西経済から道州制を見る

・・・塩沢由典『関西経済論』から

第六回Cafe塾 奈良塾

「道州制で何が変わるか ?関西経済から道州制を見る」
http://www.kansaishu.net/pages/repo/100529_repo.html 講師:高松義直  (関西州ねっとわーくの会代表)
日時:平成22年5月29日(土)午後3時15分〜6時00分
場所:奈良県経済倶楽部 5F小会議室
高松義直 道州制リポート   道州制で何が変わるか〜関西経済から道州制を見る
  ―塩沢由典大阪市大名誉教授著「関西経済論」から
中央集権制から道州制に転換すると様々な効用があるが、導入すれば全て解決するものではない。関西が自ら議題を設定し、関西の諸問題に取り組むには、頭脳機能と神経機能が 働かねばならない。関西は世界の大都市圏としては4位の経済規模を持つ、有望地域だが、その利点を生かし切れていない。京阪神・関西の総合力を生かすには何が必要なのか。次代の産業構造を予測すれば、「ものづくり」から「創造産業」に移行せざるを得ない。その条件は何か。関西経済の発展・成長にとって道州制がどういう役割を果たすことができるのか、が本日のテーマです。 道州制で何が変わるか
関西の頭脳機能と神経機能
1日交流圏・関西の可能性
関西活性のカギ
詳細は以下のレジメ(PDF) を、ご覧ください。




著者紹介
塩沢由典=京大理卒、大阪市大教授、京大院寄付講座「関西経済論」客員教授。現在は中央大教授。関西経済の発展・成長にとって道州制がどういう役割を果たすことができるか。

(1)道州制で何が変わるか

中央集権制から道州制へ 「関西の政策を自由に追求」

道州制は、国がすべてを決め、府県と市町村はその執行団体であるという国政のあり方を変えるもの。頭脳機能を地方に取り戻すための改革。なぜ道州制と言われれば、日本の中央集権制の政治・行政制度が明治維新以来140年を経て、制度疲労の極に達しているということに尽きる。何が変わるのかと言えば、国の一律の政策から切り離されて、関西なら関西に必要な政策を自由に追求することができること。頭脳機能と人材育成が道州制の成否のカギを握る。道州制は、単なる府県合併ではない。道州制を機能させるための基礎となる精神は自主・自立。原理は@立法権 A財政自主権(徴税権)立法権では@条例の独自制定権 A固有領域の設定。

政策実験・道州間の競争 「キャッチアップ時代からの決別」

政策を実験的態度で実施してみるという政策実験が可能。キャッチアップ期には欧米の先例があり、不必要だった。トップランナー期には自ら大胆な政策実験に取り組み、成功するのでなければ、社会や経済は停滞する。道州制は大胆な政策実験を可能にする社会へ転換する鍵。産業規模のイノベーションを誘発するには、ある程度の広がりが必要。産業政策は府県単位では狭すぎる。道州単位での政策実験を可能にすることが課題。道州制の下では、日本全体としては、複数の実験を同時に進めることができる。道州制移行の重要な効果は道州が競争して、新しい政策実験に取り組むことにある道州制が発足すれば、地域の特性を生かして戦略的に産業育成することが可能。

府県では狭い 「拡大変化した生活圏・経済圏」

道州制は、道州政府が現在の道府県の仕事をまとめて行うようになるものではない。議会を含む道州政府の役割の多くは、国が独占してきた法律制定や政策決定、多くの許認可事務や個所付け事務を道州政府が行おうというもの。府県体制が明治以降の大きな社会変化に対応しきれていない。府県は生活圏・経済圏から見て、狭くなりすぎている。道州は、基本的には1つの経済発展の単位であるべき。広域行政は府県ごとに分断され、産業政策・経済政策は、無用な競争と重複、集中・集積の阻害、個別政策のばら撒きに陥っている。関西州を構成すべき最大の理由は、京阪神大都市圏を1 つの都市域として経営しなければならないという必要から。 都市圏から離れた地域の経済発展を保証するためにも広域の関西州が必要。

(2)関西の頭脳機能と神経機能

情報創造と域内流通の問題点 「関西独自に議題を設定」

情報は地域経済が発展できるかどうかに関わる重大な社会基盤。情報創造がまず重要。情報を発信するには、それに値する情報を関西が生みだしていなければならない。情報創造を可能にするのは、域内の情報流通。関西では必要な頭脳機能が働いていない。神経系統も十分に機能していない。第1要因は京阪神大都市圏全体を見渡す広域行政が不在。全体に対する関心が薄い。第2要因は関西水準でものを考える人々の圧倒的な少なさ。何かの議題は、常に東京で決められた。府県制の一番の欠陥は重要なことは地域に考えさせなくしたこと。道州制が実現しても、関西独自の議題設定ができる状況を創りださなければならない。今のままでは、関西州が実現しても、正確なわれわれの経済地図をもつことなく、産業政策、経済政策、社会政策をおこなうことになりかねない。

関西の歴史の厚みをどう生かすか 「創造的活動を支える」

大阪は京都以上に歴史の厚みを持つ街。「難波」「浪速」は『古事記』『日本書紀』の神武天皇東征の故事によるもの。大阪は様々な文学や芸能の舞台。太融寺は源融の菩提寺。安倍清明は阿倍野の生まれ。大阪には多くの文化遺産と歴史の蓄積があるのにかかわらず、活かしきれていない。 これは情報回路の問題。いかなる都市も都市の内部で回流する情報を持たない限り、同じ運命。情報発信の構造的問題は、外に情報が流れないことではなく、むしろ大阪の内部で回る情報回路を持たないこと。内部に情報回路を持たないと、都市は自分自身のために議題を設定することができない。 ⇒情報の発信者と受信者との交流を作りだすこと。顔と顔を突き合わせる関係から。 歴史が重要なのは、それが観光に役立つためではない。より深いところで、都市の創造活動を支えるもの。大きな転換・革新への示唆を歴史が与えてくれる。

(3)1 日交流圏・関西の可能性

1 日交流圏の関西 「1800万人の経済発展単位」

経済が持続的に成長するためには、生産性の伸びと新しい需要の創造が不可欠。経済の成長と停滞・衰退を分析するには、行政単位とは異なる経済地理的概念が必要。1 日交流圏とは、普通の人がほぼ毎日、顔を合わせることのできる範囲。通学や通勤。関西の1 日交流圏の基点は最大人口を抱える大阪市北区梅田。京阪神は1 日交流圏。片道運賃1000円以内、時間1 時間内。東西は滋賀県近江八幡市、三重県名張から兵庫県加古川市の範囲、南北は京都市から奈良県北半分。通勤から見た都市圏概念としての都市雇用圏と同じ。関西は姫路、和歌山含め1800万人。 関西という都市圏を経済の発展単位と考えると、新たな将来像が見える。

世界4位の大都市圏 「京阪神の総合力を生かす」

京阪神都市圏は世界の大都市圏の中で第4位の総所得地域。1位はニューヨーク 2位は東京3位はロスアンゼルス 4位に京阪神、5位はソウル。京阪神都市圏は、行政的にいくつもの府県に分担されているため、1つの大都市圏としての取り組みが遅れ、世界第4位の消費地という利点を生かしきれていない。 東アジアで東京の次に注目されているのは、ソウル、香港、上海。京都・大阪・神戸の各都市がそれぞれの個性を生かしてファッション都市を競うことはよいことだが、アジアの都市間競争となると、京都・大阪・神戸がいかにがんばっても個々には力がない。 3都が協力してブランド・イメージを作りださなければならない。ここにも府県制の壁が横たわる。全体としての戦略、規模の力が必要。政府の新産業育成政策だけでは足りない。地域の情報回路を整備し、先端の傾向を育てることのできるような都市空間を作り出すこと。

関西の停滞はなにが問題か。「トレンドを創り出す意気込み」

活性化策が目先の効果に目を奪われていること、都市の総合力を生かせていないこと、地域の経済発展を考える学問がないこと、地域の頭脳機能・神経機能が失われていること、全体を統括する政府がないこと、などの問題。関西周辺には、すばらしい歴史や景観の土地がたくさんある。これらの地域と京阪神大都市圏を往復しながら、制作の機会と知的刺激、ビジネスと発表の場を確保する創造者たちが現れれば、京阪神大都市圏の魅力はより大きくなる。 しかし、府県境を越えて関西全体の発展が政策的にも取り組まれることはない。中央集権の思想によって、東京と結びつこうとする志向が強いうえに、狭い府県境のため、中核部の京阪神には、周辺都市を育てようという戦略を持っていない。大阪になにより欠けているのは、自分たちで先端を切り開き、トレンドを作りだすという意気込み。関西の可能性を現実のものとするには、街づくりから人の動き、意識の持ち方まであらゆることが議論され、可能性を現実のものとする取り組みが必要。関西がロンドンやパリ、あるいはベルリン以上に魅力ある町であるためには、京阪神は1つの都市として協力することが必要だが、それは町の個性を放棄することではない。

都市の持つべき機能 「創造的環境を整備する」

大阪市は政令指定都市では1960年以降、人口を増やしていない唯一の都市。関西の人口は全国の17%、地域総生産などの経済指標も17%。江戸期は全国の7割。10年後、20年後の産業構造・就業構造はどうなるか?第1は製造業に従事できる就業者数・比率はさらに低下する。第2は産業そのもののあり方が変化。今後、単一の産業が成長エンジンになることは次第になくなる。⇒小さな個人企業が多数成立し、それらが全体として付加価値と雇用を拡大するといった新しい経済成長のストーリーを想定しなければならない。製造活動の様々な段階を小規模企業が単独では行えない。これを助けるのが都市の集積。今後の経済をけん引するのは小種類の商品の大量生産ではなく、無制限に差別化が可能な商品・サービス。これからの都市政策に必要なことは、活発な経済を可能にするために、新しい商品や仕事を生み出す環境=創造的環境を整備すること。都市ごとに異なる政策が必要。経済動向に対する深い分析に基づく戦略的政策を可能にする頭脳の確保が必要。この問題に対する根本的解決は道州制しかない。

(4)関西再生のカギ

関西経済の現状と問題点 「関西は一つ一つ」

首都でない地域共通の課題は、財源を伴う権限の移譲がなされず、府県・市町村が補助金目当ての施策執行に追われていること。関西には統一した行政主体を持たない。「関西は1つ」ではなく「1つ1つ」。国の出先機関は多数存在するが、権限は限定されており、地域の問題を捉えて新しい政策を立案するなどの機能は乏しい。地域振興の主体としての政府の不在は、問題提起の次元から始まって、必要な頭脳機能が働きにくいことを意味する。本当に必要なのは広域行政の道州制への転換。関西で一番問題なのは、この地域が全体として取り組むべき議題設定ができないこと。政策課題、伸びる技術分野は何か、注目すべき技術革新は何か、といった認識づくり。新しい議題設定ができないために、すべての分野で東京の後追いになる。創造的な経済・社会を作りだすことは不可能。

創造都市 「変わる社会・変わる考え・変わる生き方」

芸術活動を含む人間の創造的な活動育み、それらとともに成長する都市を「創造都市」という。都市の創造的活動を支える地理的単位が1日交流圏。先進事例のまねでは、創造都市は実現しない。「ものつくりが大切」自体は正しいが、アジア大競争時代に輸出可能な商品製造で生きていくためには、「他の国が作れない商品をつくるか(差別化戦略)」、「労働生産性を上げるか(生産性向上戦略)」しかない。創造的な仕事をする人たちが暮らしていける経済をつくり、教育の在り方を変える。一律教育による大量の金太郎飴を作っても、給料を払うことはできなくなる。創造都市をつくるとは、根本的なところで、社会を変え、人間を変えること。 変わる一つは「考えが変わる」。まず「補助金がつくからなにかやってみよう」という考え方を排除すること。画一的なリゾート法の破綻の例。商店街でいえば、街の個性を生かすこと。日本中同一の施策によって作りだされると考えること自体が間違い。二つ目は「生き方が変わる」。自分たちの生活の時間配分を変えることが含まれる。今後は長時間勤勉に働く市民のみでは都市は停滞する。

21世紀の産業構造 「ものづくりから創造産業へ」

今後の日本経済において価値を生み出す中心は、ものづくりから創造活動へと変わらざるをえない。それが、今後の産業活動の中核になる。創造活動は、科学技術学問分野と芸術分野の活動に分けられる。関西経済全体としては、この2つの分野で活発な経済活動をもつことが重要。 第3 次産業の就業者数比率は64.3%(2000年の国勢調査)半数が卸売・小売業・飲食店・サービス業。構成比を上げてきたのはサービス業。製造業の市場では中国・インドなどアジアの価格競争に巻き込まれ、生産性を上げるか、アジアではできない製品を作る以外にない。 ⇒高くてよい製品の市場は小さく、就業者は縮小する。新しい産業・新しいビジネスが起こって仕事を作りださない限り、経済は悪循環に陥り、不景気と停滞に落ちる。経済グローバル化の波。 第3次産業は、今後ますます比率が大きくなる。「時間充実産業」が今後増大。⇒情報通信業、教育・学習支援、飲食・宿泊、医療・福祉、複合サービス事業。これらの制作に携わる産業は「コンテンツ産業」と総称。大量生産の時代は標準化・基準化が指導概念であったが、時間充実支援では、個性や創造性が要求される。⇒創造が中心にある産業を創造産業という。

ロボット産業育成 「多数の企業の活躍期待」

関西にはロボットの先端技術研究を行う大学・研究機関が多くあり、技術力ある多数の小企業が集積。 *大阪大学、神戸大学、奈良先端技術大学院大学、国債電気通信基礎技術研究所など 先端技術を産業に育てるには、技術主導では方向を誤る危険がある。 ロボット工業会の予測では2025年には総額8兆円を見込む。バイオ産業用、手術など医療用、災害救助、警備、家事支援など。関西は先端地場産業育成に成功した経験⇒液晶産業。優れた周辺産業を持っていた。産業発展という観点からみると、世界競争は第1に地域間競争であり、どの地域がより早く商業化にこぎつけられるかという競争。地域の力がなければ、世界競争に勝てない。産業育成という観点から見ると、日本全体という単位はやや大きすぎる。中小企業にとっては、1日交流圏の内部の状況が重要。多くの中小企業が活躍できることは、ロボット産業の特性から戦略的重要さを持つ。多様な需要の1つ1つに合わせた多様なロボットが必要であり、多数の管制機メーカーが必要。市場開拓、用途拡大のために地域社会全体の取り組みが望ましい。

関西活性化には何が必要か 「新しいテーマを創りだす」

新しいアイデアでやっていける人材と頭脳を各地方で用意できるか。 現状では、地方でのシンポジウムでは5人中、3〜4人は東京から招致、県や市の計画やプロジェクトのかなりが、東京のシンクタンクに依託。(A県とB県のプロジェクト案は固有名詞など多少焼き直して作られる。似たようなアイデアがあちこちに出回る。 地方には3つの「ない」がある。@人材を発見する装置がない A人材を発見しようとしていない B人材を育てていない さらに、育ってきた人たちが逃げてしまう。 経済の地盤沈下の原因は基本的には、産業構造の変化に追いつけなかったこと。繊維中心の産業から抜け出せず、重厚長大産業を続け、ソフト産業化に遅れた。 転換能力に問題。原因の1つは、メディアの東京一極集中。テレビ、新聞、雑誌など。テレビの全国放送の発信源シェアは、東京発が81%、大阪発は9%。東京から見て面白くなければ取り上げない。地方本社にも東京の価値観が植え付けられる。全国で大量にばらまかれる雑誌はすべて東京で出版。テレビ。新聞・雑誌のどれをとっても、全国的な情報はほとんど東京に握られている。地方経済にとっては、重大な問題構造。新しい問題、新しいテーマ、話題などを創り出すのは、結局、全部東京。東京だけに知的活動が集中。この構造を一挙に逆転させるものとして、衛星放送の地域配分を提案。21世紀に日本がどのようなメディア構造を持つのかという問題は今後の第問題。 人材の発見機能・育成機能を創り出すために、チャンネルが必要。東京で作られたテーマを自分たちが消化するというのでは、いつまでたっても東京より先に進めない。自分たちがテーマを創り出す知的中心性が必要。知的中心性がなければ、将来の新産業、付加価値生産性の高い産業、つまり国際分業の中で日本が引き受けるべき産業を育てていくことはできない。メディアはそうした戦略性を持った産業。 *** 次代の産業構造の推移を予測すれば、創造的産業の育成をしない限り、日本は衰退する。関西経済も没落の道から逃れられない。新産業開発、新しい経済社会づくりに道州制は有効。

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