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自著紹介
ポール・オームロッド『バタフライ・エコノミックス』
塩沢由典監修・北沢格訳
早川書房、2001年。
わたしが翻訳の監修を引き受けましたポール・オーメロツドの『バタフライ・エコノミックス』の宣伝をさせてください。ベンチャーとは直接関係はありませんが、経済政策を考えるに当たっては大変参考になる本です。 塩沢由典
翻訳は英文学者の北沢格さんで、読みやすい日本語に訳されています。わたしの役目は、日常用語と経済用語との調整をはかること、経済学として論理な流れになっているかどうか確認することでした。いわゆる「監訳」に過ぎませんが、みなさんにこの本をぜひ読んでいただきたいと考えています。
著者オーメロッドには面識はありません。オーメロッドの本は、以前に斉藤精一郎訳で『経済学は死んだ』がでています。それを読んだときの記憶で、経済学の現状批判としてなかなか矛先が鋭かったという印象があり、監訳の役目を依頼されたときも、「まあ、あの続きだろう」ぐらいのつもりで気楽に引き受けました。ところが、実際に訳文を読んでみますと、その内容は想像以上に深いものでした。
これまで、複雑系経済学といっても、多分にテクニカルなメッセージが多く、複雑系の考え方から経済政策の考え方そのものを変えてしまうといったものはありませんでした。わたしの著書を含めて、そういって良いとおもいます。ところが、今回のオーメロッドの本は、まさにそうした経済思想の中心問題に切り込んでいます。この本をもって、複雑系経済学は確実に一歩前進したと言えます。
本書は、モデルとしての複雑系を議論するものではありません。そういうものが背後にあることは確かですが、それが中心ではありません。それらは、例証に過ぎません。そうではなくて、経済が複雑系であることの結果として、われわれにはなにができるのか・できないのか、経済政策としてどう考えるべきか、が説得的に書かれています。本の中で取り上げられいる犯罪や結婚にかんする考察がどれくらい妥当なものか、専門外のこととして確たることは分かりません。しかし、それらの話しを傍証として、景気循環の性質に迫り、それらの性質を承認した上で、経済政策としてどう考えるべきか、そこに語られている哲学は深いとおもいます。わたし自身は、ふかい感銘をうけました。
特効薬的な処方箋は期待できませんが、混迷を続ける日本経済を考える際にも、参考になると考えます。
ぜひお読みいただくとともに、機会があれば、別の読者の方々にも、ご紹介の労をとっていただければ幸いです。
なお、監修者としてわたしがつけたふたつの注のうち、113ページの注には説明の誤りがあります。いわゆる「モンティ・ホールの問題」といわれるものについてですが、問題の背景をしつかり調べる時間なしに注記してしまいました。詳しい説明をこのホームページの別のページに載せましたので、疑問をおもちの方はそちらを御覧ください。
=> モンティ・ホールの問題(『バタフライ・エコノミクス』監修者注について)
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